政策

⿻が成功すれば、10年で政府間および政府内と、民間技術開発、オープンソース/市民社会との関係が一変するだろう。この未来では、公的資金(政府からのものも、慈善活動からのものも)が重要なデジタルインフラの金銭支援の主要な資金源となる。そしてそうしたインフラの提供が、政府や慈善アクターたちの議題において、中心的な課題となる。このインフラは国を超える形で、こうした目標を重視する各国政府指導者の国際ネットワークによって支援される市民社会の協力と標準設定組織によって開発される。こうしたネットワークが作り出した網の目と、それが開発し、標準化し、保護し、新たな「国際的ルールに基づく秩序」の基盤となるオープンプロトコルは、国をまたがるデジタル社会のオペレーティングシステムとなるのだ。

これをもう少し詳しく見れば、そうした未来の革新性がわかる。今日、ほとんどの研究開発と、ソフトウェア開発の圧倒的多数は、営利目的の民間企業で行われている。同様に、もっと広く先進民主主義国での研究開発の大半は、営利目的だ。しかもただでさえ少ない政府の研究開発支出(平均的なOECD諸国ではGDPの0・5%)さえ主に非デジタル分野に使われ、圧倒的に「基礎研究」に充てられている。これは、多くの市民、市民団体、企業が直接使用できるオープンソースコードやインフラに逆行する。公共ソフトウェア研究開発への支出は、ほとんどの国が物理的なインフラストラクチャに費やしているGDPの数パーセントにものぼる支出に比べると、実に乏しい。

将来的にはこれと対照的に、ほとんどの政府と慈善寄付者はGDPの約1%をデジタル公共研究、開発、インフラに充てるだろう。これは、世界全体で年間約1兆ドル、つまり現在の世界の情報技術投資の約半分に相当する。これにより、公共デジタルインフラへの投資が少なくとも2桁増加する。オープンソースソフトウェアやその他のデジタル公共インフラへの、現在の限られた金融投資でさえも、巨額のボランティア投資の呼び水となっている。それを考えると、この公共IT投資の激増で、デジタル産業の性格は一変する。さらに、公共部門の投資は主に国または地域(EUなど)のレベルで行われており、一般大衆にはほとんど見えていない。私たちが考える投資は、研究協力、民間投資、オープンソース開発と同様に、今日のインターネットプロトコルに似た国際的に相互運用可能なアプリケーションと標準の構築を目指す、国境を越えたネットワークによって行われる。それは少なくとも、最近話題になっているAIや暗号などの技術と同じくらい、一般の人々の注目を集めるだろう。


前章で強調したように、⿻イノベーションの主な出発点は、単一政府の政策ではない。多様で、通常は中規模のさまざまな機関から、外部に向かって発信されるものだ。しかし、政府は世界的に見て中心的な機関だし、経済資源の相当部分を直接振り向け、ずっと多くのリソース配分を左右している。⿻技術の利用者として、また⿻発展の支援者としての政府参加なしには、広範な⿻化などあり得ない。

もちろん、そのような完全な受け入れは、⿻と同じようにプロセスであり、最終的には政府の本質そのものを変革するはずだ。本書の相当部分で、それがどういうことかすでに示唆してきた。だから本節では代わりに、これまで想像した未来を実現するにあたり、今後10年間に何が起こるかというビジョンに注目する。私たちが描く政策指針は、右で強調したさまざまな前例(ARPA、台湾、そしてそれほどではないがインドなど)に基づいているが、今日の「大国」が採用している標準モデルのいずれにも直接従うのではなく、それぞれの要素を引き出し、組み合わせ、拡張して、今日これらの「大国」が追求しているものよりも野心的なアジェンダを作り上げている。だから背景を説明するために、歴史的なモデルから教訓を引き出すに先立ち、まずこれらの「モデル」を図式化して説明しよう。これらを今日の国際ネットワークのグローバルな広がりに適用する方法、そうした投資を財政的に支えて維持する方法、そして最後に、これらの政策に必要な社会および政治支援を構築する道筋について説明する。次の節では、この最後のものに焦点を当てる。

デジタル帝国

最も広く理解されている技術政策のモデルは、法学者アヌ・ブラッドフォードの著書『デジタル帝国』(未邦訳)でうまく描かれている[1]。米国とその技術輸出を消費する世界の大部分では、技術開発は、きわめて単細胞な、民間主導の新自由主義的な自由市場モデルに支配されている。中国では、技術開発は国家主導で、独立主権、発展、国家安全保障を中心とした国家目標を目指すよう強く方向づけられている。ヨーロッパでは、海外からの技術輸入を規制し、欧州の基本的人権基準を確実に遵守させ、他の国々にこの「ブリュッセル効果」遵守を強制することが主な焦点だ。この三分法はいささか戯画化されており、どの行政区域もこれらの戦略の要素を少しずつ取り入れてはいる。だがこの大まかな説明は、ここで述べようとしている代替モデルを考えるにあたり、便利な比較役を提供してくれる。

米国のモデルでは、1970年代から広く記録されているように、政府と市民部門は経済と技術開発から離脱し、代わりに「福祉」と国防機能を重視するという大ざっぱな傾向によって推進されてきた[2]。ARPANETのパイオニアであるにもかかわらず、米国はパーソナルコンピューティング、オペレーティングシステム、物理的およびソーシャルネットワーキング、クラウドインフラのほぼすべての開発を民営化した[3]。リックライダーが予測した民間の独占がこれらの分野を埋めつくすようになると、米国の規制当局は主に反トラスト措置で対応した。これは、少数の例(たとえばMicrosoftへの措置など)では市場動向に影響を与えた。が、規模が小さすぎるし遅すぎたというのが一般的な理解だ[4]。特に、検索、スマートフォンのアプリ、クラウドサービス、いくつかのオペレーティングシステム市場で、独占的支配や緊密な寡占の出現を許してしまったとされる。最近のアメリカ反トラスト規制当局は、「ニューブランダイス」運動に率いられて、なおさら頑固に反トラスト手段ばかりを使うようになった。が、裁判での成功は限定的だし、半導体チップと生成基盤モデル(GFM)の市場では新興の独占企業という課題は拡大する一方だ[5]

米国の主な競合となるモデルは中国だ。中国共産党中央委員会は一連の五カ年計画を起草するが、近年では国家権力のさまざまな手段を使って、技術開発への投資や方向性を決める傾向がますます強まっている[6]。こうした組織的な規制措置、国内技術企業に対する党主導の指令、主に政府主導の研究開発投資により、近年の中国の技術開発の方向性は、商業・消費者向けアプリケーションから、ハードや物理技術、国家安全保障、チップ開発、監視技術へと劇的に変化している。米国と並行する大規模基盤モデルへの投資などは、政府によって厳格かつ直接的に管理されており、検閲や反対意見の監視に関する優先事項と確実に整合するよう配慮されている。このビジョンに沿わない事業活動に対する一貫した取り締まりにより、近年は中国の技術分野の多くで劇的な活動停滞が見られ、特にWeb3を含む金融ITでそれが顕著だ。

米国や中国とは対照的に、EUとイギリスは(いくつかの注目すべき例外はあれど)主に、これら2つの地政学的大国が生み出した技術フレームワークの輸入国に甘んじてきた。しかし、EUは輸入国という立場による交渉力を活用し、「規制大国」として行動し、他の二大国が技術覇権を競う中でしばしば無視する、人権保護で介入してきた。これには、GDPR(一般データ保護規則)でのプライバシー規制の世界標準の設定、AI法による生成基盤モデル(GFM)への規制の主導、デジタルサービス法デジタル市場法データ法などの一連の最近の事前競争規制による競争市場標準の形成に対する支援などがある。これらは米中に代わる積極的な技術モデルをきちんと定義したわけではないが、欧州市場での販売を目指す米中企業の行動を制約し、形成してきた。EUはまた、サービス提供市場全体での緊密な相互運用性を目指しており、他の地域でそれを真似た法律が制定されることも多い。

目立たない道

台湾の玉山がユーラシアプレートと太平洋プレートの交差部からそびえ立つように、私たちが玉山の頂上からこれまで見てきた政策アプローチは、この3つのデジタル帝国の背後にある哲学の交差から生じている。台湾は米国モデルから、世界に開かれたダイナミックな分散型の、自由な起業家エコシステム重視を学んだ。これは特にオープンソースエコシステム内でのスケーラブルで輸出可能な技術を生み出す。欧州モデルからは、人権と民主主義の重視を採り入れた。これは基本的なデジタル公共インフラの開発と、デジタルエコシステムの他の部分が依存する、基本的な指向となる。中国モデルからは、公共投資の重要性を学んだ。これは技術を積極的に進歩させ、それを社会の利益に向ける。

Figure shows reshaped flags of the People's Republic of China, the United States of America and the European Union as if they were continental shelves, intersecting at a central island of Taiwan, topped by Yushan.  The PRC is symbolized by a puppeteer, the US by a child running wild, and Europe by a traffic cop.  Taiwan, in the center, is symbolized by people collaborating.

図 7-0-A 台湾の政策モデルが中華人民共和国、アメリカ、EU の競合する代替モデルの交差から生まれる 様子を示したイメージ図



出典:Khoon Lay, Alexis Lilly, Adrien Coquet and Rusma Trari HandiniによるNoun Projectのロゴ(CC BY 3.0)をもとに著者たちが作成[7]

これらを合わせて生まれるモデルでは、公的部門の主な役割は積極的な投資と支援によって、民間補完型だが市民社会主導の技術開発を強化し保護することであり、その目標は、人権と民主主義の原則をプロトコルとして体現するデジタルスタックを積極的に構築することとなる。

台湾の総統杯ハッカソンは、公共部門の支援と市民社会のイノベーションを融合させた、このユニークなモデルの好例だ。2018年に開始されて以来、この年次イベントには何千人もの社会革新者や公務員、さらに外国のチームもたくさん集まり、台湾の公共デジタルインフラの強化に協力してきた。毎年、最優秀の5チームが、次の会計年度にその活動を支援するという約束を総統からもらい、地域規模の実験が成功すると、それが国家のインフラプロジェクトのレベルに引き上げられる。

総統杯ハッカソン固有の特徴は、上位20チームの選択に一般の参加のためクアドラティック投票を使用していることだ。これにより、このイベントは単なるコンペを超えて、市民社会のリーダーシップのための、強力な連合構築プラットフォームとなっている。たとえば、水と大気の汚染の監視を重視する環境保護団体は、1億6000万ドルという多額の投資に支えられた市民IoTプロジェクトで、全国的にその貢献が注目されるようになった─台湾モデルが草の根の取り組みの影響と範囲を効果的に拡大したという好例だ。

過去からの教訓

もちろん、この「台湾モデル」は過去10年でいきなり出現したわけではない。むしろで強調したように、台湾の合作事業と市民社会に対する公的支援の伝統と、米国国防総省の高等研究計画局(ARPA)でインターネットを構築したモデルとを統合したものが基盤となっているのだ。このモデルについては、「3–3失われた道ダオ」で強調した。米国や他の多くの先進経済国が「新自由主義」から「産業政策」へと方向転換しているいま、ARPAの物語は重要な教訓と注意点を秘めている。

一方で、J・C・R・リックライダーが率いるARPAの情報処理技術局(IPTO)は、おそらくアメリカ史上、そしておそらく世界史上、産業政策として最も成功した例だ。IPTOは、マサチューセッツ工科大学(MIT)、スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校、カーネギー工科大学(現在のカーネギーメロン大学またはCMU)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校における、大学ベースのコンピュータインタラクションプロジェクトのネットワーク開発に初期資金を提供した。これらの投資の注目すべき成果には、次のようなものがある。

①この研究ネットワークを、後に現代のインターネットとなるものの種子へと発展させた。

②このネットワークを構成するグループを発展させて、世界で最初期にして、いまだに最も有力な計算機科学と計算機工学の学科に育てた。

③こうした大学を取り巻く形で、シリコンバレーやルート128回廊など、世界最先端のデジタルイノベーションハブ地域を発展させた。

しかし、これらのテクノロジーハブが世界中の(失敗に終わることが多い)地域開発と産業政策の羨望と憧れの的となっている一方で、リックライダーのビジョンの根底にある指向が、それを模倣した人々の志向とは根本的に違っていたことは見落としてはならない。

産業政策の目標としてありがちなのは、シリコンバレー開発のような成果を直接達成することだが、リックライダーはそんなことは意図していない。彼は、人間とコンピュータの共生、攻撃に強いネットワーク、機械を介した通信を基盤としたコンピューティングについての、未来像の構築に焦点を当てていたのだ。⿻は、リックライダーの未完のビジョンを、密接な基盤としている。リックライダーは、地域の経済発展への関心に基づいて参加大学を選んだのではなく、コンピューティングの未来のビジョンを実現する可能性を最大に高めるために参加大学を選んだのだ。

産業政策は、産業面の大規模な「ナショナルチャンピオン」創出を目的とすることが多く、独占禁止法や反トラストなどの競争政策とは対立するものと思われがちだ。こうした競争政策が、過度に集中した産業力の抑制を目的とするからだ。リックライダーが1979年の論説「コンピュータと政府」で述べたように、これら2つの伝統とは対照的に、IPTOの取り組みは独占禁止法の大まかな目標(オープンで分散化された市場の可能性の確保)を採用しつつも、産業政策のツール(積極的な公共投資)を適用してその目標を達成した。デジタル化以前の市場競争の勝者を縛るのではなく、IPTOは過度の権力集中を回避するような方法でデジタル世界が展開されるような、ネットワークインフラ構築を目指したのだ。リックライダーは、当時は「IBM」と表現したが、今日ならMicrosoft、Apple、Google、Meta、Amazonなどに相当する支配的な技術プラットフォームによって、デジタルライフの重要な機能が独占されかねないと予測したが、それは1970年代以降にこの投資を継続できなかったためだ。このアプローチを補完しようとして、リックライダーは、ほとんどの産業政策のように民間営利産業の発展を直接支援するのではなく、国防、政府、民間部門をサポートする基本インフラを、市民社会ベース(主に大学主導)で開発させようとしたのだった[8]

リックライダーのアプローチは、当時は高度なコンピューティング開発の中心地だった大学で主に展開されたが、国立科学財団などの資金提供者による、好奇心主導の基礎研究に対する従来の支援とは対照的だった。彼は一般的な学術調査や研究への支援ではなく、明確な使命とビジョンを推進した。それは、物理的および社会的距離を超えたコミュニケーションと交流を可能にし、他のネットワークと相互接続してリソースを共有し、スケーラブルな協力を可能にする、アクセス容易な計算機ネットワークの構築だった。

しかし、このミッションを指示しながらも、リックライダーはそれを達成するための適切なコンポーネントの決め打ちはせず、代わりに「協調競争的な」研究室のネットワークを確立し、各研究室が実験を行い、これらのシステムのさまざまなコンポーネントのプロトタイプを開発して、それが相互のやりとりの中で標準化され、それがネットワーク全体に広まるようにした。民間部門の協力者もこの開発に貢献する上で重要な役割を果たした。その中には、Bolt, Beranek and Newman社(リックライダーはIPTOでの役職に就く直前までここで副社長を務め、インターネットのプロトタイプを数多く構築した)やXeroxのPARC(リックライダーが支援した多くの研究者が後に、特に連邦政府の資金が減った後に集結して、研究を続けた)などがある。しかし、都市インフラの開発と調達では普通のことだが、これらの役割はARPANETを構成するネットワーク化された多部門連合によって開発された、全体的なビジョンと計画の構成要素のひとつにすぎなかった。主に民間企業の利益のために開発され、推進されたモデル(ほとんどのパソコンおよびモバイルOS、ソーシャルネットワーク、クラウドインフラの基盤)とはまったく違うのは明らかだ。

右で繰り返し述べてきたように、インスピレーションを得るためには、ARPANETや台湾の「古き良き時代」を振り返るだけでは不十分だ。インドのIndia Stackの開発には、多くの類似した特徴がある[9]。最近では、EUが欧州デジタルIDおよびGaia-Xデータ共有イニシアチブを通じて各種の活動を展開している。ブラジルシンガポールなど、さまざまな行政区域も、同様のアプローチでの実験を成功させている。こうした活動はどれも、それぞれ長所も短所もある。だが分散型イノベーションを促進するインフラ構築を、民間部門に支配されるのではなく、市民社会との協力と参加で実現することを目的とした公共ミッションという考え方は、ますます定型化しており、「デジタル公共インフラ」と呼ばれることも多い。このアプローチを拡大し、グローバルなデジタル/多元社会の発展への中心的なアプローチにしようというのが、私たちの主な提案だ。しかしこれを実現するには、ARPAと台湾のモデルを更新し、この劇的に拡大しかねない規模と野心に合わせて調整する必要がある。

新しい⿻秩序

モデルの更新が必要となる主な理由は、ARPAモデルの基本要素が現代のデジタル生活の形に合わないことだ。リックライダーは1980年に早くもこれを認識していた。ARPAは多部門にわたる取り組みだったが、それでもその中核は、米国の軍産複合体と米国の学術界の協力者だった。これは、米国が世界の二大国のひとつであり、科学的な資金とミッションがソ連との対立に深く結びついており、ほとんどのデジタル技術が学術界で開発されていた1960年代の状況では理にかなっていた。しかし、リックライダーが指摘したように、1970年代後半ですらすでに、これは齟齬が見られるようになっていた。今日の世界は(前述のように)主要なデジタル公共インフラの開発においてすら、はるかに多極化している。主要な市民技術開発者はオープンソースコミュニティにおり、民間企業がデジタル世界の大部分を支配しており、軍事利用はデジタル技術に対する社会のビジョンの中のごく一部でしかない。デジタル技術はいまや、現代の生活のあらゆる側面にますます浸透しているからだ。この状況に適応したいなら、今日のインフラのビジョンは、デジタル省庁などの機関を通じた技術のミッション設定に国民を参加させ、国境を越えてネットワークを構築し、オープンソース技術を活用し、民間部門をもっと効果的に方向転換させる必要がある。

リックライダーとARPANETの協力者は、インターネットと⿻の基礎を築くすばらしいビジョンを作った。しかしリックライダーは、これではプロジェクトの正当性が長続きしないと考えていた。私たちが強調したように、彼の願望の中心にあるのは、「コンピュータ技術の開発と活用に関する決定は、『公益』のためだけでなく、国民自身が自分たちの未来を形作る意思決定プロセスに参加する手段を与えるために行うべきだ」ということだった。デジタル⿻インフラの中心部分の必要投資に不可欠な、正当性と国民の支持を得るためには、議題設定の主な中心が軍事テクノクラシーであってはならない。右で説明した一連のITをすべて活用して、国境を越えて大衆を巻き込み、IPTOと同様の協調的な取り組みの動機となるようなミッションについて、重複するコンセンサスを実現する必要がある。これらのツールには、すべての市民がデジタルの未来を形作る力があると感じさせるようなデジタル能力教育、長期的な技術計画に市民を積極的に招き入れる日本科学未来館のような文化施設、市民が協力して未来像を描き、政府や慈善団体の支援を受けてそのビジョンを広く消費されるメディアに組み込むアイデアソン、アライメント会議、その他ITの方向性に関するデジタル強化された熟議などがある。

世界各地に登場しているデジタル省庁(そして願わくば間もなく生まれる⿻省庁)は、従来の軍事的な主導機関よりも、参加型で先見性のある目標を設定するフォーラムとして自然であることが証明されている。よく知られている例は、2019年からデジタル変革大臣を務めるウクライナのミハイロ・フェドロフだ。台湾もこの分野の先駆者であり、2016年にデジタル担当政務委員を任命し、2022年に正式なデジタル省を設立した。日本は、パンデミック中にデジタル化の緊急性を認識し、台湾との議論に触発されて、2021年に内閣レベルでデジタル庁を設立した。EUは、欧州委員会「デジタル時代にふさわしい欧州」マルグレーテ・ヴェスタガー上級副委員長の指導の下で、そのデジタルポートフォリオをますます公式なものとしている。彼女は人気テレビシリーズ「コペンハーゲン」のネタ元となり、本書の著者のひとりの娘のミドルネームにもなった[10]

これらの省庁は本質的に協力的であり、他の政府部門や国際機関と緊密に連携している。2023年、G20のデジタル大臣たちは、国連のグローバル目標に沿って[11]デジタル公共インフラ(DPI)を世界的な協力の重要な焦点として選んだ。ARPAなどの機関とは違って、デジタル省庁は、国民と市民社会が関与する国際ミッションを開始するためのプラットフォームにふさわしい。デジタルの課題が世界安全保障の中心となるにつれ、デジタル大臣を任命する国が増え、オープンでつながりのあるデジタルコミュニティを育成するだろう。

しかし、⿻インフラの国家拠点は、そのテントを支える柱のごく一部でしかない。今日、単独でそのような取り組みの主たる拠点となれる、またはなるべき国は存在しない。インターネットと同様に、そうした取り組みは最低でも国際的、おそらくは国境を越えたネットワークによって構築されねばならない。デジタル大臣はその役職が創設されたら、他の大臣たちとネットワークを構築し、この作業に国際的な支援を提供し、ARPANETが大学ベースのノードに対して行ったように、国家ベースのノードを接続できるようにすべきだ。参加するオープンソースプロジェクトの多くは、それ自体が単一の主要な国家拠点を持たず、多くの行政区域にまたがり、国境を越えたコミュニティとして参加し、場合によっては国のデジタル省とほぼ同等の条件で尊重されることさえある。たとえば、イーサリアムコミュニティと台湾のデジタル省はほぼ対等な関係だ。

政府高官レベルだけの関係は、現在の国際関係が広がりすぎて、ろくに機能できない。インターネットが繁栄した国の多くは、他のインターネット普及国と時々衝突してきた。多くの市民アクターは、政府間レベルで合意される程度の支援などよりも、ずっと強い国境を越えた関係を築いている。これは、例えば宗教や人権擁護活動を通じた市民のつながりが、国際関係のみよりも強固な協力基盤を作り出してきたという、一貫した歴史的パターンを反映している。ITは、良くも悪くも、交渉で締結する条約よりも簡単に、国境やイデオロギーの境界を越えてしまうこともある。たとえば、Web3コミュニティやg0vやRadicalxChangeなどの市民テクノロジー組織は、政治面で「民主的」とはあまり認識されていない国でも、大きな存在感を持つ。国境を越えた環境保護運動や人権運動、宗教などの運動も、こうしたパターンをもっと大規模に中心に据えている[12]

このような交流が、もっと広範な民主化に向かうとは限らないが、政府間の完全な連携を待ち続けるばかりで、できる範囲で相互協力の範囲を拡大しようとしないことも大間違いだ。著名な国際関係学者のアン=マリー・スローターは、著書『新世界秩序』(未邦訳)で、このような国境を越えた政策と市民ネットワークが世界中の政府をますます補完し、連携し、国境を越えた協力の枠組みを形成する様子を描いている[13]。この枠組みまたはネットワークは、現在の国際機関である国連すら上回る効果を発揮することもある。したがって、こうした取り組みに対する(暗黙の)支援は、デジタル省庁の役割にとって、各国間の直接的な関係と同じくらい重要と考えるべきだろう。

国境を越えるネットワークとして、デジタル省庁を大きく補完できるのは、学術協力だろう。しかし、今日政府に最も無視されているデジタルエコシステムの要素は、いまも数十億ドルの研究支援を受けている学術界ではない。むしろ、ほとんど顧みられないオープンソースなどの非営利のミッション主導型の技術開発者の世界なのだ。私たちが大いに主張してきたように、これはすでに世界の技術スタックの多くのバックボーンを提供している。しかし、彼らの仕事は完全にパブリックドメインに属し、ほとんど公共の利益のために開発されているのに、政府からの目に見える財政支援はごくわずかで、慈善団体からもほとんど支援を受けていない。

Figure compares cumulative historical funding of OSS projects v. venture capital, illustrating that the latter is roughly 3 orders of magnitude larger.

図 7-0-B オープンソースの資金とベンチャー資本投資の既知のものを比較



出典:著者たちが作成、データ出所は注参照[14]

さらに、この部門は多くの点で学術研究よりもインフラ開発に向いている。これは、物理世界の公共インフラが一般には学術界によって構築されないことと同じだ。学術研究を大きく制約しているのは、この分野が持っている関心や境界なのだが、これは広く利用可能な市民インフラにとってはまったくどうでもいいものなのだ。学術的キャリアは参照、クレジット、新規性に依存するが、これはインフラのための指向として最高のものにはなりにくい。インフラは多くの場合、目に見えないものであり、他のインフラとできるだけ簡単に相互運用できることが望ましい。学術研究は、理想的なインフラのユーザー体験とは本質的に違う、厳密さと説得力の水準や専門分野としての様式を重視しがちなのだ。学術研究に対する一般の支援は重要だし、一部の分野では学術プロジェクトも⿻インフラに貢献できるが、政府や慈善団体は学術研究部門ばかりをあてにしてはいけない。そもそも学術研究は、世界中で毎年数千億ドルの資金を受け取っているのに、オープンソースコミュニティはおそらくその全歴史を通じて、おそらく10億ドル未満しか受け取っていないのだ。これらの懸念の多くは、「分散型科学(DeSci)」運動によって研究され、強調されてきた[15]

さらに、オープンソースコミュニティは、公益を目的とした市民社会主導の技術開発の可能性という点で、氷山の一角にすぎない。Mozilla財団Wikimedia財団などの組織は、主にオープンソースプロジェクトと連携して開発を推進しているが、純粋なオープンソースコード開発を超えた重要な開発活動を行っており、その活動のおかげで彼らの提供物が世界的にずっとアクセスしやすくなっている。さらに、公益を目的とした技術がオープンソースコードのすべての特長を継承しなければならないという理由は特にない。

OpenAIAnthropicなど、GFM開発の一部組織は、これらのモデルをあっさり無料で提供しろと言われたら、当然ながら難色を示すだろう。しかしこうした組織は公益を目的とした開発とライセンス供与を明確に重視しており、これらのミッションに忠実であり続けるために、利益最大化だけを目的としない構造にもなっている[16]。資金の要求と独自のビジョンの限界を考えると、これらの組織がこうした指向をどこまで理念として遵守するかはわからない。しかしそうした組織をつくり、⿻技術を使ってこの目標達成を実現することはできるし、そうした組織が中核インフラ開発の中心となるように公共政策を構築することは、十分に考えられる。非営利の⿻インフラを開発しても、その要素に対して課金したがる組織もあるだろう(一部の高速道路が渋滞や維持管理のために通行料を徴収しているのと同じだ)。また、所有権を主張しないものの、機密データや内部データを公開したがらない組織もある。学術的なARPAモデルの限界を超えるためには、オープンソース・モデルに限らず、一般の人々に⿻公共財を提供する組織の⿻エコシステムを育成すべきだ。幸いなことに、政策立案者は、このようなエコシステムを育成するためにさまざまな⿻技術を使える。

さらに、理想的な構造が何であれ、そのような公益機関が過去数十年にわたって構築された大規模な民間デジタルインフラをあっさり置き換えるとは思えない。多くのソーシャルネットワーク、クラウドインフラ、シングルサインオンアーキテクチャなどは、廃止してしまうのはもったいない。むしろこうした投資を公益目的に振り向けるため、投票、メディア、職場に関する節で説明したように、公衆の意見を尊重するような方向にガバナンスを移行する合意を、公共投資と引き換えに結ばせるのが適切ではないだろうか。これはかつての経済民主主義改革の波により、民生発電所を単に潰すのではなく、公益事業委員会を通じて、部分的に地方の民主的な管理ネットワークの下に置こうとした方法によく似ている。デューイもこの動きに密接に関係していた。IT業界の多くのリーダーは、プラットフォームを「公益事業」、「インフラ」、「公共広場」と呼ぶ。⿻デジタルインフラのプログラムの一部が、それらを本当にその呼び名どおりに機能するよう改革するのは、決して無理な話ではない。

⿻規制

このようなエコシステムの繁栄を可能にするには、法律、規制、金融システムの方向転換によって、こうした種類の組織に力を持たせる必要がある。理想的には、⿻と整合するだけでなく、本当にそれを直接促進する方法で税収を得て、それを社会的および財政的に持続可能なものにするべきだ。

政府と政府間ネットワークの最も重要な役割は、調整と標準化だと言える。ほとんどの国の経済で最大の主体である政府は、採用する標準、購入先の組織、市民と公共サービスとのやりとりを構築する方法に基づいて、デジタルエコシステム全体のふるまいを左右できる。たとえばIndia Stackが民間部門にとって非常に中心的な存在になった理由の核心はこれだ。民間部門は公共部門に先導され、したがって公共が支援した市民プロジェクトも支援したのだ。

しかし法律は、どのような種類の構造が存在できるか、どのような特権があるのか、そして権利がさまざまな組織間でどのように分割されるのかを定義する中心でもある。オープンソース組織は現在、非営利志向と国際的な立場を両立させようとして苦戦している。オープンコレクティブ財団などの組織は、ほとんどこの両立だけを目指して設立され、必要な諸経費のために、このサービスを提供することでプロジェクト収益の相当な割合を受け取っていたが、それでも維持が不可能となり、本書執筆時点では解散の手続きに入っている[17]。本来ならこうした組織は、積極的な補助金の対象とまでいかなくても、支援も優遇も得られるべきなのに、それがないため、営利企業に対して競争で非常に不利な立場に置かれているのだ。分散型自律組織(DAO)など革新的で民主的な国境を越える組織のさまざまな形態は、常に法的障壁にぶつかっている。そうした障壁の一部は正当な理由があるものだが(金融詐欺を避けるためなど)、国際的で民主的な非営利組織形態を支援し、擁護する法的枠組みを確立するには、さらに多くの作業が必要なのだ。

他の組織形態は、おそらくさらに支援が必要だ。「4–4財産と契約」の節で説明したように、データ作成者や関連する集合的なデータ利害関係者のデータ権についての集合的な保護を目的とするデータ連合には、労働組合などの団体交渉組織と同様の保護が必要だが、現在はそんな保護がないばかりか、データに関する個人の権利を極端に重視する多くの法域(EUなど)では、データ連合に対する保護自体が実質的に不可能かもしれない。労働法が労働者の団体交渉権を強化するために進化したのと同じように、データ労働者が集中的なモデル構築者に比べて不利になったり、野心的なデータコラボレーションにとって克服できない障壁となるほどばらばらになったりしないようにするため、データ労働者が集団で権利を行使できるように、法律が進化するべきだ。

組織形態以外にも、法や規制の変更は、共通の目標のためにデータを公正かつ生産的に使えるようにする上できわめて重要となる。従来の知的財産制度はずいぶん硬直しており、使用の「改変性」の度合いに注目するので、あらゆるモデル開発が厳しく実行不可能な制限を受けるか、これらのモデルの機能にとって非常に重要な作業を維持するためにきわめて大切な、道徳的権利と金銭的権利をクリエイターから奪いかねない。裁判官、立法者、規制当局は、技術者や一般の人々と緊密に協力して、さまざまなデータがモデルの出力に情報を提供する複雑で不完全な方法を考慮し、関連する価値が、訓練のプロセスにおいてモデル内で作成される中間データと同様に、データクリエイターに「逆伝播」されるよう保証するような、新しい基準を策定する必要がある[18]。このような新しいルールは、無線周波数帯の再利用を可能にした財産権の改革に基づくものとなる。「4–4財産と契約」の節で説明したように、同じような規定をさまざまな他のデジタル資産向けに策定すべきだ。

さらに、このようなビジョンと適切に連携すれば、独占禁止法、競争ルール、相互運用性義務、金融規制は、新しい組織形態の出現と既存の組織の適応を促す上で重要な役割を果たす。独占禁止法と競争法は、集中した商業的利益が顧客、サプライヤー、労働者に対し、蓄積した権力を乱用できないようにする。大規模なコラボレーションを阻害するという競争政策の通常の欠点なしにこの目的を達成する自然な方法は、そうした主体にその企業を直接管理する権限を与えることだ。「6–1職場」で説明したように、⿻テクノロジーはこれらの利害関係者が意味のある発言力を獲得する自然な手段を提供する。独占禁止当局としては、反競争的行為や合併に対する代替策として、このようなガバナンス改革の義務付けを検討することは当然だし、懲罰的措置の必要性を評価する際の緩和要因として、ガバナンスにおける発言権を検討することも当然だろう[19]

相互運用性を義務付け、これらの標準の意味と形を発展させる標準設定プロセスと連携させることはそうした標準を機能させ、民間独占による不当な支配を回避する重要な手段となる。金融規制は、さまざまな法域でどんなガバナンスが受け入れられるかを定義するのに役立つが、残念ながら、特に米国と英国では、有害で独占的な一株一票ルールに大きく傾いている。金融規制改革では、「ポイズンピル[20]」などの特注条項で一株一票が乗っ取りへと向かう傾向を相殺するよりも、権力の集中を継続的に考慮して対処するクアドラティック投票やその他の⿻投票など、もっと包摂的なガバナンスシステムの実験を奨励すべきである。また、労働者、サプライヤー、環境取引先、顧客の声を受け入れて支援し、体系的な独占効果を持ちかねない集中的な資産保有者にも、同様のツールを使用するように誘導するべきだ。

⿻税制

しかし、規則、法律、規制は、投資、イノベーション、開発から生じる前向きな枠組みの支援しかできない。それを補完するものがなければ、民間のイノベーションによって決められた世界に追いつこうとして、常に守勢にまわるしかない。そうした枠組みを使って補完すべき中核的な存在は、むしろ公的投資と多部門投資なのだ。そしてそうした投資を行うには当然歳入が必要となる。したがって、⿻インフラを自立させるための財源問題が当然生じる。サービスに対して直接課金したのでは、民間部門の罠に逆戻りだが、「一般歳入」に頼るのは、持続可能でもないし正当性を主張するのも難しそうだ。さらに、税金自体が⿻の促進に役立つケースも多い。ここではこの種の税金に注目する。

デジタル部門は、これまで課税がきわめて困難だった。関連する価値の源の多くが地理的に曖昧な形で生み出されているか、そうでなければ無形だからだ。たとえば、企業内の従業員間のコラボレーションやノウハウのデータやネットワークは、多くの場合国境を越えるため、法人税率の高い法域で主に発生していても、法人税率の低い国で計上できることが多い。多くの無料サービスには監視という暗黙の代償が伴うが、この価格が明示されていた場合とは違い、サービスにも暗黙の労働にも課税されない。G20とOECDが合意した、最低法人税率を設定するという最近の改革はかなり役立ちそうだが、デジタル環境に厳密に適応しているわけではなく、したがって課題への対処は部分的なものにとどまりそうだ。

しかしこれは課題だが、別の面から見れば機会でもある。税収を明示的に国境を越える形で実現し、それを貯めて⿻インフラを支えるために使えるのだ。企業が恣意的に、本社所在地として決めた場所に税収が行くのではない。理想的には、こうした税金は、以下の基準をできるだけ十分に満たすべきだ。

①直接的⿻(D⿻):デジタル税は、理想的には、単に税収を増やすだけでなく、⿻の目的そのものを直接促進または左右すべきだ[21]。これにより、税金がシステムの足を引っ張るのではなく、実際に解決策の一部になる。

②管轄のアライメント(JA):税金が自然に徴収できる(そしてされる)管轄ネットワークは、これらの税金を処分する管轄に対応すべきだ。これにより、税金を定めるために必要な連合が、その税収を処分する協力関係を確立するために必要な連合とかなり近くなる。

③歳入のアライメント(RA):歳入源は、歳入の使用によって生み出される共有価値から生じる価値に対応するものにすべきだ。これで歳入を処分する人々がそのミッションの成功を、自然に重視するようになる。また、税金を支払う人々が、税金で生み出された商品から一般的に利益を得ることを保証して、税金に対する政治的反対を軽減する。

④財政的妥当性(FA):税金は、必要な投資への資金提供に十分な水準でなければならない。

5–7社会市場」の節で説明した「循環投資」の原則は、最終的にこれらすべてをほぼまとめて実現できることを示唆している。スーパーモジュラー共有財によって生み出された価値は、最終的にはどこかに計上されてサブモジュラー収益となるはずであり、その収益はそれらの価値の源をサポートするためにリサイクルされるべきである。この価値の抽出は、市場支配力を低下させるのが通例であり、資産が完全に使用されるように促す。

ただしこのような理論上の理想はあっても、実際には、それを実現する理想的な税金を決めるのは、第5章で議論した技術的課題と同じくらい、専門的な試行錯誤のプロセスになるだろう。しかし、さまざまな検討の結果、これらの目的の多くをかなり達成できそうな、有望な最近の提案がいくつか登場した。

①集中計算資産税:計算、ストレージ、および一部の種類のデータなどのデジタル資産に、累進的な(税率または寛大な免除のいずれかによる)共通所有税を適用する[22]

②デジタル土地税:希少なデジタル空間の商業化または保持に対する課税。たとえばオンライン広告への課税、競争力のある方法での周波数帯免許とウェブアドレス空間の占有、そして最終的には仮想世界の排他的空間への課税を含む[23]

③暗黙のデータ/関心交換税:本来であれば労働税と付加価値税が発生するはずの、オンラインの「無料」サービスに関連する暗黙のデータと関心交換に対する課税。

④デジタル資産税:デジタル通貨、ユーティリティトークン、NFTなどの純粋デジタル資産に対する共通所有税。

⑤コモンズ由来データ税:ライセンスのないコモンズ由来データで訓練されたモデルから得られる利益には課税できる。

⑥フレキシブル/ギグワーク税:主に「ギグワーカー」を雇用し、従来の労働法に基づく負担の多くを回避している企業の利益に課税できる[24]

右記の基準に従ってこれらの税金を包括的に「採点」するには、ずっと詳細な政策分析が必要になるが、いくつかの例を挙げれば、これらの提案の背後にある設計の考え方のパターンがわかるはずだ。集中計算資産税は以下の3つを同時に目指す。デジタル資産のもっと完全な使用を促進すること(これはあらゆる共通所有税と同じだ)、集中的なクラウド所有を阻止すること(これにより競争を促進し、潜在的なセキュリティ脅威を減らす)、および公的監視の外で潜在的に危険な規模のモデルのトレーニングを可能にしかねない計算リソースを蓄積するインセンティブに足枷あし かせをはめることで、すべてD⿻の例示となっている。ほとんどの形式のデジタル土地税は、当然のことながら、どの国民国家に帰属するものでもなく、インターネットのインフラ、アクセス、コンテンツをサポートする国境を越えた機関の歳入となり、JAを実現する。暗黙のデータ交換税は、デジタル経済で生み出される真の価値を明確に示し、その価値を最大化するため、それを促進するインフラを奨励し、RAを実現する。

もちろん、これらは最初の提案にすぎず、さらに多くの分析と想像力があれば、可能性の領域はさらに広がる。しかし、これらの例は今日のデジタル世界における主要なビジネスモデル(クラウド、広告、デジタル資産の販売など)とかなり密接に一致しているので、ちょっと工夫するだけで、その世界を流れる価値のかなりの部分を税収にして、デジタル経済を根本的に変える規模の投資を支えることに使えそうだ。

これは政治的に実現不可能に思えるかもしれないが、示唆的な前例として米国のガソリン税がある。当初はトラック業界が反対していたが、政策立案者がこの税収を、道路インフラ建設を支援する目的税とすることに同意したため、最終的には業界に受け入れられた[25]。この税金は明らかに業界に直接的な負担を強いるものだが、道路建設に対する間接的な支援は、トラック運転手の仕事に必要な基盤を提供するものなので、この負担を相殺して余りあると思われたのだ。それなら、もっと的を絞った税金(道路渋滞税など)のほうがよかっただろうと反対する人もいるだろう(その通り)。だがガソリン税は汚染を抑制するという副次的なメリットもあったし、渋滞課金が高くついたはずの時代に、道路の主な利用者にかなり的を絞れていたのだ。

今日でも、このような野心的なデジタルインフラ支援税を支持するため、企業と政府が適切な連合を結成することは十分にあり得る。そのためには、調達資金をきちんと保管すること、オンライン上の豊富なデータを活用した巧妙な課税手段、高度で手間のかからない徴税方式、適切ながらあまり広げすぎない管轄権を慎重に活用して、他の人々も追従するような形で課税徴税を行うこと、そしてもちろん、以下で議論するように、大量の国民的支持や圧力が必要になる。効果的な政策リーダーシップと国民の動員によって、これらを達成し、デジタル時代の⿻インフラを支える条件を整えられるはずだ。

私たちの未来を維持する

⿻を体現するなら、そうしたリソースで支えられる組織のネットワークは、デジタル世界のためのモノリシックな新設グローバル政府であってはならない。その構造と、多様性と集団的協力を高めるというデジタルガバナンスの既存フォーラムとのつながりの両方において、それ自身が⿻であるべきだ。私たちはデジタル社会の性格を根本的に変えようとしているが、既存の制度を破壊したり弱めたりするなら⿻は達成できない。私たちの目標はその正反対だ。根本的な⿻インフラの構築は、デジタルのパイを劇的に拡大し、多様化させ、なるべく多くの人々に恩恵をもたらし、実験と成長のためのスペースも拡大できるプラットフォームと考えるべきだ。

私たちのビジョンの要素ごとに、必要となる支援の水準もまったく異なる。たとえば、没入型共有現実のような、最も身体性の高い技術の多くは、比較的身近な規模で運用されるはずなので、必然的に比較的「プライベート」な形で開発されるだろう(資金調達モデルとデータ構造の両面で)。ただし潜在的な落とし穴にはまらないようにするため、ある程度の公的支援と規制は入れる。一方、市場構造の最も野心的な改革には、多くの場合国境を越えて、基本的な政府や法の仕組みを再編しなければならない。このすべての作業の基盤となる基本プロトコルの開発には、おそらく膨大な調整も要るし、ネットワーク内のノード(インドや台湾など)が自国のフレームワークを世界標準にしようと競争する中で、ARPAの協調競争的な構造を完全に活用した、多くの実験も必要となる。⿻的な法律、規制、投資、管理権の効果的な網の目によって、できるだけこの多様なニーズに対応できる、国内および国をまたがる多様な機関の存在を確保しなければならない。そして税金と法的権限を巧みに一致させて、相互運用しつつ関連した役割を果たせるよう、そうした組織に力を与えよう。

そうした組織は資金が著しく不足し、しばしば相互調整も不十分だし、ここで概説したような野心的な使命は持っていない。だが幸いなことにデジタルおよびインターネットのガバナンスに関する既存の国際的構造の多くは、だいたいこうした特徴を備えている。

つまり、いくつか個別の新機能の追加、資金調達の改善、ネットワークと接続の強化、市民参加の充実は必要だが、インターネットはARPANETの創設者が想像したとおり、その構造とガバナンスにおいてすでに⿻なのだ。この取り組みの向上、擁護、サポートに必要となる、一般の理解と参加を構築することが何よりも重要となる。

変化を組織する

もちろん、これを達成するのは大仕事だ。この章や本書全体を通して議論されているアイデアはきわめて専門的だ。ここでのかなり抽象的な議論でさえ、上っ面を撫でたにすぎない。本書のアイデアにさえ、深入りする人はほとんどいないだろうし、ましてや政策面や、その政策をはるかに超えた幅広い研究、開発、配備作業など、その政策が力をもたらす分野での実に広範な作業に取り組もうなどという人は、ほぼいない。

まさにそれだからこそ、「政策」は⿻を構築するために必要な作業のほんの一部にすぎないのだ。政策リーダーひとりにつき、彼らが訴えるビジョンを構築するために、何十人も、いや何百人もが必要となる。そして、そうした人々ひとりにつき、専門的な部分に専念するわけではなくても、ITが進みかねないデフォルトのリバタリアン的またはテクノクラート的な方向性に対して全般的な嫌悪感を共有し、⿻のビジョンを広く支持する何百人もの人々が必要となる。彼らは、専門的または知的なレベルではなく、感情的、本能的、イデオロギー的なレベルでそれを理解し、政策と技術分野の中核にいる人々のために、やる気や生きた視点、方針採用のネットワークを構築する必要がある。

そのためには、⿻は一連の創造的なITや知的分析をはるかに超えねばならない。環境保護主義、AI、暗号資産のように、幅広く理解される文化的潮流や社会運動にならなければならない。それは、知的かつ社会的に深い基礎研究の体系に根ざし、多様で組織化された各種の企業によって探究開発され、組織化された政治的関心によって支えられるものとなる。そこに至る経路には、アクティビズム、文化、ビジネス、研究の世界における方針立案者たちなどが含まれるが、そうした人々だけにとどまるものなどでは決してない。だから最後に、こうした世界のいずれかと接触のある皆さんに対し、これを実現するプロジェクトに参加するよう呼びかけさせてもらおう。


  1. Anu Bradford, Digital Empires: The Global Battle to Regulate Technology (Oxford, UK: Oxford University Press, 2023). ↩︎

  2. Daniel Yergin and Joseph Stanislaw, The Commanding Heights: The Battle for the World Economy (New York: Touchstone, 2002). ↩︎

  3. Tarnoff, op. cit. ↩︎

  4. Licklider, “Comptuers and Government”, op. cit. Thomas Philippon, The Great Reversal (Cambridge, MA: Harvard University Press, 2019). ↩︎

  5. Lina Khan, “The New Brandeis Movement: America’s Antimonopoly Debate”, Journal of European Competition Law and Practice 9, no. 3 (2018): 131-132. Akush Khandori, “Lina Khan’s Rough Year,” New York Magazine Intelligencer December 12, 2023 at https://nymag.com/intelligencer/2023/12/lina-khans-rough-year-running-the-federal-trade-commission.html ↩︎

  6. Central Committee of the Chinese Communist Party, 14th Five-Year Plan, March 2021; 英訳は https://cset.georgetown.edu/publication/china-14th-five-year-plan/. ↩︎

  7. https://thenounproject.com/ ↩︎

  8. Licklider, “Computers and Government”, op. cit. ↩︎

  9. Vivek Raghavan, Sanjay Jain, Pramod Varma, “India stack-digital infrastructure as public good”, Communications of the ACM 62, no. 11: 76-81 ↩︎

  10. Danny Hakim, “The Danish Politician Who Accused Google of Antitrust Violations”, New York Times April 15, 2015. ↩︎

  11. Benjamin Bertelsen and Ritul Gaur, “What We Can Expect for Digital Public Infrastructure in 2024”, World Economic Forum Blog February 13, 2024 at https://www.weforum.org/agenda/2024/02/dpi-digital-public-infrastructure. 特に開発途上国では,多くの国は自然にこうした機能を持ったりスピンオフしたりできる,計画省庁を持っている. ↩︎

  12. Alexander Wendt, Social Theory of International Politics (Cambridge, UK: Cambridge University Press, 1999). 中東協力における宗教の役割についての最近の事例研究としては Johnnie Moore, “Evangelical Track II Diplomacy in Arab and Israeli Peacemaking”, Liberty University dissertation (2024)参照. ↩︎

  13. Anne-Marie Slaughter, A New World Order (Princeton, NJ: Princeton University Press, 2005). この本は本書著者のひとりにとって,心の中の特別な場所を占めている.この本のリリース前に手に入れたサイン版が,妻となる女性に対して著者のひとりがあげた最初の誕生日プレゼントだったからだ. ↩︎

  14. Jessica Lord, “What’s New with GitHub Sponsors”, GitHub Blog, April 4, 2023 at https://github.blog/2023-04-04-whats-new-with-github-sponsors/. GitCoin impact report at https://impact.gitcoin.co/. Kevin Owocki, “Ethereum 2023 Funding Flows: Visualizing Public Goods Funding from Source to Destination” at https://practicalpluralism.github.io/. Open Collective, “Fiscal Sponsors. We need you!” Open Collective Blog March 1, 2024 at https://blog.opencollective.com/fiscal-sponsors-we-need-you/. Optimism Collective, “RetroPGF Round 3”, Optimism Docs January 2024 at https://community.optimism.io/citizens-house/rounds/retropgf-3. ProPublica, “The Linux Foundation” at https://projects.propublica.org/nonprofits/organizations/460503801. ↩︎

  15. Sarah Hamburg, “Call to Join the Decentralized Science Movement”, Nature 600, no. 221 (2021): Correspondence at https://www.nature.com/articles/d41586-021-03642-9. ↩︎

  16. OpenAI, “OpenAI Charter”, OpenAI Blog April 9, 2018 at https://openai.com/charter. Anthropic, “The Long-Term Benefit Trust”, Anthropic Blog September 19, 2023 at https://www.anthropic.com/news/the-long-term-benefit-trust. ↩︎

  17. Open Collective Team, “Open Collective Official Statement - OCF Dissolution” February 28, 2024 at https://blog.opencollective.com/open-collective-official-statement-ocf-dissolution/. ↩︎

  18. ここでの可能性を示唆する興味深い研究の方向性は,ニューラルネットワークと遺伝的アルゴリズムの先駆者ジョン・H・ホランドによるもので,彼は経済の中の市場でつながった企業ネットワークと,ニューラルネットワークとの間に直接的な対応を引き出そうとした. John H. Holland and John M. Miller, “Artificial Adaptive Agents in Economic Theory”, American Economic Review 81, no. 2 (1991): 365-370. ↩︎

  19. Hitzig et al., op. cit. ↩︎

  20. Eric A. Posner and E. Glen Weyl, “Quadratic Voting as Efficient Corporate Governance”, University of Chicago Law Review 81, no. 1 (2014): 241-272. ↩︎

  21. 経済学者はこうした税を「外部性」に対する「ピグー税」と呼ぶ. これは「5-7社会市場」の節で述べたように,以下の一部を表す方法として悪くはないが,外部経済は例外的ではなくむしろ普通に発生するものだったりするので,私たちはこの別の言い方のほうが好きだ. たとえばこうした税の多くは,確かに外部性を作り出す集中市場の問題に対応してはいるが,通常そうしたものはピグー税の範疇とは見なされていない. ↩︎

  22. このアイデアについて継続的に発展研究を続けているCharlotte Siegmann, “AI Use-Case Specific Compute Subsidies and Quotas” (2024) at https://docs.google.com/document/d/11nNPbBctIUoURfZ5FCwyLYRtpBL6xevFi8YGFbr3BBA/edit\#heading=h.mr8ansm7nxr8 参照. ↩︎

  23. Paul Romer, “A Tax That Could Fix Big Tech”, New York Times May 6, 2019 も類似のアイデアを提案している. ↩︎

  24. Gray and Suri, op. cit. ↩︎

  25. John Chynoweth Burnham, “The Gasoline Tax and the Automobile Revolution” Mississippi Valley Historical Review 48, no. 3 (1961): 435-459. ↩︎