ポスト表象コミュニケーション

東京を見下ろす、日本科学未来館の中には「老いパーク」がある。これは加齢によりボロボロになった心身への入り口を提供してくれる珍しい場所だ[1]。訪問者たちは視界のぼけや、白内障を体験できる。音は高音部を除去されている。年齢認知の苦労を反映した鏡の写真ブースでは、顔の表情がぼやけ、かすれている。ペダルを踏んで足首に重りをつけ、カートによりかかりながら足踏みするのは、身体への時間がもたらす損傷や、姿勢に時間が与える重荷のシミュレーションだ。老いパークはただの展示ではなく、現在見すごされている人口群である高齢者との、もっと深いつながりを育むものとなる。

老いパークは、深部感覚のポスト表象コミュニケーションの感動的な例だ。参加者は言葉や記号を解釈するだけでなく、身体のあらゆる感覚形成を活用し、親密な感覚体験を通じて情報を受け取り、感覚の衰えを直接体験させる。


「ポスト表象コミュニケーション」の誕生は、人々の考えや感情の伝達の新時代を告げるものだ。このモデルは言語や従来の記号の限界を超える。言語や記号は、文化的な境界や主観的な解釈に制約されがちだからだ。「ポスト表象コミュニケーション」は神経インターフェースや媒介現実、GFM(生成基盤モデル)といった最先端技術を活用して、もっと直感的で直接的な人間のやりとりを促進する。

この節では、こうした技術の一部を紹介し、ポスト表象コミュニケーションの概念や最先端を検討し、それが人間のつながり、教育、コラボレーションにもたらす革命的な影響を考察する。言語で話したり書いたりする必要なしに、思考や感情や感覚体験を伝える技術の可能性も考える。この部分では、こうしたコミュニケーションが社会、個人のアイデンティティ、集合意識の理解にどう影響するかを考察する。さらに、ポスト表象コミュニケーションが文化的な議会や紛争といったグローバルな課題に対し、もっと深い共感と共有体験の促進にどう影響するかも検討しよう。

この節はまた、この深い相互接続に伴う倫理的な問題についても検討する。たとえばプライバシーの懸念や、個人の知的自立性保護といった問題だ。このコミュニケーション革命の突端にいる私たちは、思考や感情が言葉のように自由に伝わり、理解は言葉の曖昧さに阻害されず、個人体験と同じくらいの鮮明さで体験を共有する未来に備える必要がある。

今日の親密さ

ジャロン・ラニアーが作った造語、ポスト表象コミュニケーションは、言語と表象の領域を超えて、直接的で没入感のある共有体験の可能性を探るものだ[2]。ラニアーは、タコのような動物に見られる、複雑な非言語コミュニケーションに啓発された。タコは、複雑なメッセージを伝えるため、自身の形や色を変えるのだ。こうしたコミュニケーションモデルは、抽象から具象へのコミュニケーションの進化を提起しており、仮想空間を通じて人間が直接かつ鮮明な思考を表現できるようにする。

現状でも、このポスト表象的な可能性は各種の人間交流に見られる。たとえば踊りや身体的な親密さは、一言もなしに複雑な感情状態や物語を伝えられる。音楽では、ミュージシャンと演者と観客との間に共有された脳活動の証拠が見られる。一部の研究はfMRI(磁気共鳴機能画像法)を使って、聞き手の脳の反応に同期が見られることを明らかにした[3]、脳波計を使って楽隊の脳活動を追跡した研究もあり[4]、こうした同期と音楽の享受につながりがあることもわかった[5]。別の例は母親と子供の絆だ。母親と胎児の心拍の同期、特に母親がリズミカルに呼吸しているときの心拍の同期は、本質的なコミュニケーション経路を示唆する[6]。こうした例はすべて、発話や書字といった言語を超えるコミュニケーションの深い可能性を示唆している。

だがポスト表象コミュニケーションで最も普遍的ながらも見すごされている感覚は「匂い」だろう。ポスト表象コミュニケーションにおいて化学信号の役割は、まだまだ研究の余地がある。化学信号は、動物界ではコミュニケーションに広く使われているし、人間の間でも精妙な役割を果たしている。生化学メッセンジャーは感情状態を伝え、多くの場合無意識のうちに他人の反応を引き起こせる。たとえば、研究によると、人間の汗には、他人が感知するとストレスや恐怖を伝え、受け手の認識や行動に影響を与える化合物が含まれる[7]。こうしたコミュニケーションは生物学に深く根ざしており、伝統的な言語手法を超えて、受け手の情動や、意識連続体の全体の近くに影響を与えられる。

つまり今日の親密な体験には、ポスト表象コミュニケーションの縁に触れる例が豊富にある。生理学的信号の同期から、人間行動やそのやりとりに精妙に影響する化学信号まで、私たちは非言語的なコミュニケーションの力を理解し活用し始めている。

明日のポスト表象コミュニケーション

ハイテク分野、特にAIの領域では、ポスト表象コミュニケーションに類似した発展が見られる。DALL-Eなどの先進AIプラットフォームがその好例だ。こうした技術は想像力に匹敵する速度で思考の視覚的な表象を生成できる。いまや自分で絵を描いたり、高度なCGソフトを使ったりしなくてもいい。心の中にしか存在しなかったイメージや場面をすぐに作り出せるのだ。思考をすぐに視覚形式に表現できるというのは、ポスト表象コミュニケーションの時代に大きく踏み込むものとなる。それは抽象概念と具体的な表象とのギャップを埋めてくれるので、考えや感情をもっと直接かつ直感的な形で伝達できるようにする。この能力は単なる芸術表現を超えるものだ。人が互いの内的体験やクリエイティブなビジョンを共有し理解する方法に深い影響を与えるものなのだ。

テクノロジーとポスト表象コミュニケーションの交差をさらに検討するとき、ホムンクルス柔軟性の概念はすばらしい視点を与えてくれる[8]。この概念は、人が自分の体とは大きく異なる仮想の体の制御を学べることを示す。人の動き(入力)と、そこからレンダリングされる動き(出力)の関係を変えることで、人は物理的な体の限界を超越できる。これは幻肢のような現象を理解しシミュレーションするのに特に重要な洞察だ。幻肢とは、人が存在しない手足を知覚してやりとりできるという現象を指す。この概念をもとに、最近のAIやアニメーションの進歩、特にリアルタイムのアニメーション制御でAIを使えば、ヒューマノイドの柔軟性の範囲はさらに拡大する。こうした技術は自然言語入力を解釈し、仮想環境で応答性の高い本物のようなキャラクターを生成できる[9]。AIを利用して、人は複雑なアニメーション制御を自然言語で行い、アバターや環境にもっと直感的に指示してやりとりできるようになる。このシナジーは各種の状態や行動を表現する能力を高め、仮想的なやりとりをもっとリアルで没入的にする。

さらに神経インターフェースをこのポスト表象コミュニケーションの分野に取り入れると、すばらしい最先端領域となる。脳と直接つながる神経インターフェースはますます高度化しており、すでに脳インプラントが身体麻痺のある患者の意思を身体的な動きに結びつける研究が進んでおり、思考と行動のギャップを埋める神経インターフェースの驚くべき可能性が示されている[10]。これによりポスト表象コミュニケーションを実現する大きな可能性の進歩が示されており、思考や感情の伝達が直接かつシームレスに行えるようになる。

こうした技術進歩を、人間の認知や知覚の理解向上と組み合わせると、もっと広い人間体験や状態を包含するコミュニケーションの未来が拓かれる。ポスト表象コミュニケーションでは、ホムンクルス柔軟性と神経インターフェースの組み合わせで、もっと包摂的で共感的なやりとりが生まれ、ポスト表象にとどまらず、深く共感的なコミュニケーション形態が実現するかもしれない。もはや物理的な制約が、深く意義あるつながりの障害とはならない、フィルタなしの体験や情動の共有という、想像もつかない形でのやりとりが実現するかもしれない。

ポスト表象コミュニケーションのフロンティア

心拍の同期から、画像を通じた思考の仮想表現まで、私たちは着実にコミュニケーションの境界が広がる現実へと移行しつつある。これにより、もっと深い共感や創造性、共通理解が可能になるかもしれない。将来的にはポスト表象コミュニケーションはすばらしい未来をもたらしてくれる。神経インターフェースを通じたテレパシー通信、制御された環境における明晰夢の共有、情動状態の直接伝達などがすべて可能になる。研究者たちは既存技術だけを使って工夫するにとどまらず、人間のつながりを一変させる大胆なイノベーションの道を拓いている。

こうした技術の発展を見ると、人々の間の障壁は今後次第に消え、もっと密接で直接的なコミュニケーションが可能になりそうだ。この新しい領域を人々が活用できるようになれば、新しい芸術、社会的な交流、集合的な問題解決の新しい形式が見つかるはずだ。それは、かつて思いもよらなかった形で私たちに共通する人間性を活用するものとなるだろう。

ポスト表象コミュニケーションの限界

ポスト表象コミュニケーションへの旅には、それなりの危険がある。もっと深いつながりを約束するツールそのものが、個性の喪失につながりかねない。各人をユニークな存在とする細やかなニュアンスが、均質な集合体験に埋もれてしまうからだ。これはプライバシー、親密な交際、個人アイデンティティの未来について深刻な懸念をもたらす。

こうした課題に対応するには、これまで論じてきた倫理的な枠組みや民主原理を活用する必要がある。ポスト表象プラットフォームにそうした原理を組み込むことで、深い統合を目指しつつ個性が確実に温存されるようにできる。⿻社会の基本原理を、こうした新領域に合わせて強化し、個人の自立性の低下を防いで、人間文化の特徴となる豊かな多様性を温存しなければならない。


  1. 未来館のある人工島のお台場すべてが,⿻のモニュメントとも言うべき存在だ. そこにはドラえもんのモニュメントがある.これは未来からきたネコ型ロボットで, 1970年代の日本のマンガが現在の子供たちの想像力を導きに戻ってきたもので,台湾にとって大きな刺激となった. この島で最大のショッピングモールはダイバーシティ(台場シティ)と呼ばれ,イノベーションの多様性(ダイバーシティ)をテーマとしている. ↩︎

  2. Jaron Lanier, You Are Not a Gadget a Manifesto, op. cit. ↩︎

  3. Abrams DA, Ryali S, Chen T, Chordia P, Khouzam A, Levitin DJ, Menon V. Inter-subject synchronization of brain responses during natural music listening. Eur J Neurosci. 2013 May;37(9):1458-69. Doi: 10.1111/ejn.12173. Epub 2013 Apr 11. PMID: 23578016; PMCID: PMC4487043. ↩︎

  4. Claudio, Babiloni, et al. Brains “in concert”: frontal oscillatory alpha rhythms and empathy in professional musicians. Neuroimage 60.1 (2012): 105-116. ↩︎

  5. Yingying, Hou et, al. “The averageaged inter-brain coherence between the audience and a violinist predicts the popularity of violin performance.” Neuroimage 211 (2020): 3.3.2. Neuroimage 211 (2020): 116655. ↩︎

  6. P. van Leeuwen, D. Geue, Michael Thiel, Dirk Cysarz, S Lange, Marino Romano, Niels Wessel, Jürgen Kurths, and Dietrich Grönemeyer, “Influence of Paced Maternal Breathing on Fetal–Maternal Heart Rate Coordination,” Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 106, no. 33 (August 18, 2009): 13661–66. https://doi.org/10.1073/pnas.0901049106. ↩︎

  7. Judith Fernandez, “Olfactory interfaces: toward implicit human-computer interaction across the consciousness continuum,” Diss. Massachusetts Institute of Technology, School of Architecture and Planning, Program in Media Arts and Sciences, 2020. ↩︎

  8. Andrea Won, Jeremy Bailenson, Jimmy Lee, and Jaron Lanier, “Homuncular Flexibility in Virtual Reality,” Journal of Computer-Mediated Communication, Volume 20, Issue 3, 1 May 2015, Pages 241–259, https://doi.org/10.1111/jcc4.12107 ↩︎

  9. Han Huang, Fernanda De La Torre, Cathy Fang, Andrzej Banburski-Fahey, Judith Amores, and Jaron Lanier. “Real-Time Animation Generation and Control on Rigged Models via Large Language Models,” arXiv (Cornell University, February 15, 2024), https://arxiv.org/pdf/2310.17838.pdf (元は2023年の37th Conference on Neural Information Processing Systems (NeurIPS) Workshop on ML for Creativity and Designにて). ↩︎

  10. Henri Lorach, Andrea Galvez, Valeria Spagnolo, et al., Walking naturally after spinal cord injury using a brain–spine interface, Nature 618, 126–133 (2023), https://doi.org/10.1038/s41586-023-06094-5 ↩︎