アクセス

インターネットが台頭するずっと前から、情報へのアクセスは常に重要な人類の文明の一部だった。フランシス・ベーコン卿が何世紀も前に言ったように、「知識は力なり」。今日の情報化時代、そして本書で説明する未来においてはなおさら、この格言が持つ文字どおりの真実性はますます存在感を増している。本章のこれまでの部分では、デジタル生活のうち人権を保障する部分に注目してきたが、そこで思い描いている世界に、あらゆる人が安全かつ忠実にアクセスできなければ、そんな話は人間の生活にとって無意味だ。ここでは、そのようなアクセスを基本的人権にするというのがどういう意味を持つべきかを探ろう。

重要なのは単なるアクセスではなく、正真性を持つアクセスだ。一部の人が受け取る情報が正確で、他の人の情報が不正確なら、後者がまったくアクセスできない場合よりもひどい。民主主義は、完全性を持った形で参加できる国民に依存する。すべての声が重要だ。一方で、コミュニティごとに事実のパターンを理解する方法は異なる。しかし、この視点の多様性が⿻な未来に貢献するためには、改ざんされていない入力データへの共通のアクセスが基盤として不可欠だ。誰しも、自分の人生の意味を自分で作れるし、作るべきだが、人々の一部がグローバル情報コモンズへの入力データについて、改ざんされたバージョンしか受け取れないなら、それを行う平等な権利を否定されてしまう。

1948年の国連世界人権宣言の採択から、2022年のインターネットの未来に関する宣言の採択まで、人類社会は表現の自由とアクセスの自由の重要性を常に強調してきた。これら2つの文書は、基本的人権からデジタル時代の自由と安全の原則へと続く道を示す。2023年には、オンライン情報の完全性に関する世界宣言が、生成型AIとその大量操作の可能性によってもたらされる集団的課題を直接取り上げている。

要するに、誰もが文脈的に完全な情報に、平等にアクセスできるようにすべきだ。そうでなければ、情報は無価値か、有害な武器になりかねない。この必須事項は、デジタル技術だけでは解決できない。民主的な構造に支えられた、集団的、普遍的、包括的なデジタル同盟も必要だ。インターネットへのアクセスがデジタル人権と見なされる今日の時代では、⿻の精神は古代の「道ダオ」の概念と同様に、世界中にシームレスに流れている。この精神は0と1から織りなされ、「生き物のインターネット」を継続的に拡大し、民主的なガバナンスと協働テクノロジーを組み合わせて社会構造に統合する。したがって、「アクセス」は技術的な可用性を意味するだけでなく、すべての人の生来のビジョンの実現にも貢献し、自然に信頼、相互尊重、安全性を育むのだ。

次に、インターネットアクセスの現状、アクセスに向けた各国の取り組み、デジタル環境への期待、今後の発展の見通しを明らかにする。

デジタルデバイドの橋渡し

世界的なデジタル化の過程で、台湾、エストニア、スカンジナビア諸国などは、インターネット開発に対する政府の積極的な支援、分野横断的なコラボレーション、政策および実施の主要参加者としての地域コミュニティワーカーの関与を通じて、デジタルアクセスを基本的人権とする原則を導入する先駆的な存在だ。しかし、これはデジタル公共インフラをサポートするために必要な長期投資にとって、皮切りにすぎない。こうした共同の取り組みは、社会の変化を推進するだけでなく、民主主義の価値観を強化し、集団的コンセンサスを確立することにも役立つ。アクセスで先陣を切るこれらの国々が、次章で説明する実効性あるデジタル民主主義を最も強く受け入れている国々なのも当然だろう。

しかし、こうした好ましい結果はさほど普及していない。デジタル格差は、特に都市部と農村部の間に見られる、社会の二極化の典型例だ。コロナパンデミック以前は、世界中の都市部の世帯の76%が自宅でインターネットを利用できた。これは農村部の39%のほぼ2倍だ。パンデミックにより、仕事や教育から社交まで、生活の中でオンラインに移行する領域が増え、こうした格差に対する世間の注目が高まった。国際電気通信連合(ITU)の報告によると、2020年だけで4億6600万人が初めてインターネットを使用したという[1]。インターネット利用者の数と世界的な普及率は増加し続けているが、アクセスにおける多面的な不平等は依然として残る。これらは、経済的、政治的、社会的などさまざまな不平等の一因だ。

本書のこれまでの部分をもとに、基本的なアクセス権を⿻観点から把握すべきだ。そこでは政策立案者の役割がきわめて重要となる。政策立案者は、世界的なデジタル格差に注目し、アクセスの不平等を解決するための適切な措置を講じる必要がある。また、オンラインでのやりとりのコンテキスト完全性を保護するデジタル公共インフラへの投資も、こうした措置に含まれるべきだ。

オープン性を促進する一方で、デジタル参加者は、インターネット上に存在する暗くて厄介な部分について啓蒙し、互いに警告し合う努力も必要だ。もちろん、この問題は世界的な社会構造と文化的多様性に関係する。幸いなことに、もはやド・トクヴィルのように海を渡らなくても、デジタル民主主義と持続可能な開発の構築におけるさまざまな国の貴重な経験を学べる。安全でオープンなデジタルアクセス環境を保護し、確立するためには、2つの重要な行動方針がある。

①デジタルインフラ:「5–7社会市場」で説明する集合行動の課題を克服する、国際インフラの相互運用可能なモデルを開発し、公平なサービスを世界規模で提供する。

②情報の完全性:模倣モデル(いわゆる「ディープフェイク」)がもたらす課題に対処し、セマンティックセキュリティを維持し、デジタル時代の便益を継続的に享受できるようにする。

この2つの基本的権利を推進できれば、ここで説明する他の権利は、すべての人々の生活体験にまで浸透し、「オンライン」の集合知の基盤としてだけでなく、世界中のすべての人の日常生活の基盤として機能する。本書でずっと強調してきたように、今日のデジタル環境における多くの公共サービスとソーシャルな交流は、資本主義に圧倒されてしまっている。今日、「インターネットアクセスは人権である」は、民主主義国の間でほぼコンセンサスとなっている。あとは民主主義とインターネットアクセスの間のややこしい部分を解きほぐせばいい。

情報の完全性を実現するインフラ

林業の専門家スザンヌ・シマードは、森林を知的システムと見なし、森林の協調的な性質の探求に取り組んでいる[2]。これらの森林は、自己認識と自発的な発達能力を備えているだけでなく、さまざまな生態学的な構成要素間の密接な相互作用も特徴としている。シマードは、カナダのブリティッシュコロンビアにある古代の森林の土壌層で、樹木の根と共生する菌根菌との間のコミュニケーションを研究した。彼女らは、菌類ネットワークによって駆動されるこの環境では、異なる種類の樹木が互いに警告信号を送り、必須の糖、水、炭素、窒素、リンを共有できることを発見した[3]

このような活気に満ちた森林では、1本の「マザーツリー」が何百本もの他の樹木とつながりを持つこともある。マザーツリーが複数あると、重なり合うネットワークを通じて集合的な有機体としての森林全体の連続性が確保され、オープンなつながりを通じて安全で堅牢な環境が確保される。

デジタルインフラは、オープン標準(プロトコル)、オープンソースコード、オープンデータを通じて、これと似たパターンをたどる。これは、グローバルコミュニティに開かれた公共の基盤として機能し、何万ものデジタルコミュニティと連携しながら、オープンで安全なインターネットアクセスを提供し、差し迫ったデジタル脅威から共同で防御を行う。

Cloudflareのレポートによると、台湾は分散型サービス拒否(DDoS)攻撃の世界有数のホットスポットだ[4]。台湾政府は、前節で説明したIPFSフレームワークをウェブサイトに採用し、プライベート・デジタルサービスと新興のオープンネットワークの両方と相互接続できるようにしている。この構造は、突然のDDoS攻撃に対する耐性を高めるだけでなく、グローバル技術コミュニティとのオープンなコラボレーションと相互サポートにも役立つ。これは、情報操作に対してシステムの堅牢性を高める方法を示している。

さらに、人々がコンテキスト的に安心して情報にアクセスする権利を確実に持てるようにすべきだ。オープンガバメントデータの主な目標はこれと整合したものだ。市民にさらなる権限を与え、政府の透明性と説明責任を高めることで、腐敗と効果的に闘い、民主的なシステムが効率的に人々に奉仕できるようになる。ウクライナの「Diia」とエストニアの「mRiik」は、信頼できるネットワークと情報のオープン性が双方向な特徴を強調した好例だ。

エストニアとウクライナはどちらも、国民参加に向けたデジタル化に積極的に取り組んでいる。両国は、デジタル技術を国民にとって真に必要な社会的ツールにし、市民が政府のサービスやリアルタイムの情報にアクセスできるように、安全でオープンなデジタル公共サービスを提供している。Diiaは、デジタル技術が長年の汚職を打破できることを世界に示した。今年、エストニアはウクライナのアプリDiiaに大きく影響を受けた最新のアプリmRiikをリリースした[5]

デジタルインフラは万能の解決策を示すものではなく、各国は独自の開発ニーズに基づいて適応する必要がある。しかし、基本的な機能と民主主義の本質はどこでも似た価値を持ち、拡大のための共通の基盤を提供する。台湾、エストニア、ウクライナは、情報の完全性とデジタルインフラが社会の回復力を高めるために絡み合う様子を示す。

結論として、アクセス権はデジタル民主主義と社会的包摂性を達成する基礎となる。そのような未来に向かうには、技術革新や政策協力など、多面的な取り組みが必要だ。次章では、これらの絡み合った問題をさらに深く掘り下げよう。


  1. International Telecommunications Union, Facts and Figures (2022) at https://www.itu.int/itu-d/reports/statistics/2022/11/24/ff22-internet-use-in-urban-and-rural-areas/. ↩︎

  2. Suzanne Simard, Finding the Mother Tree: Discovering the Wisdom of the Forest (New York: Knopf, 2021). ↩︎

  3. Suzanne W. Simard, David A. Perry, Melanie D. Jones, David D. Myrold, Daniel M. Durall and Randy Molina, “Net Transfer of Carbon Between Ectomycorrhizal Tree Species in the Field”, Nature 388 (1997): 579–582. ↩︎

  4. Omer Yoachimik and Jorge Pacheco, “DDoS threat report for 2023 Q4” Cloudflare Blog January 9, 2024 at https://blog.cloudflare.com/ddos-threat-report-2023-q4. ↩︎

  5. ウクライナがコードとUX/UIデザイン手法をエストニアとすぐに共有したことに注目(Igor Sushon, “Estonia Launches the State Application MRiik, Built on the Basis of the Ukrainian Application Diia,” Mezha, January 19, 2023, https://mezha.media/2023/01/19/diia-mriik/.https://mezha.media/2023/01/19/diia-mriik/) 参照. ↩︎