メディア

多くの人々が日常生活で直接、経験するのは、世界情勢のほんの一部でしかない。みんなが知っているつもりのほとんどすべては、人間関係、学校教育、そしてほとんどの場合「メディア」、特にジャーナリズム(ラジオ、テレビ、新聞)とSNS、電子メールやグループチャットなどの小規模または大規模のグループ通信を介して得たものだ。デジタル技術は、メディアを変革すると大いに期待された。ここでは、デジタル技術とSNSが大きな原因だとされるメディアへの危険と害を強く認識しつつ、この可能性を検討しよう。デジタル技術がこれらの害の多くを是正し、リックライダーやテイラーのような先駆者がデジタルメディアに見出した可能性の一部を実現する方法を探るのだ[1]

特に私たちは、これからの⿻の波が、写真やテレビよりも劇的にソーシャルな距離を超えた共感を高めるのに役立てること、ジャーナリズムのプロセスに有意義かつ有益に参加できる人の数を1桁以上増やせるかもしれないこと、メディアへの信頼レベルと機密保持の規範を20世紀半ばのピーク時のレベル近くまで回復させられるかもしれないこと、国家政治だけでなく他のさまざまな社会組織における「感情的党派化」(つまり、政治的分裂の線を越えた嫌悪)レベルの上昇のほとんどを元に戻せるかもしれないこと、そして、メディアへの持続可能で一貫性のある資金提供を回復するのに役立つかもしれないことを強調する。つまり、今日のメディアが直面している多くの危機に⿻が対処し、それを逆転させる方法を示そうというわけだ。

他人の立場に立ってみる

右で述べたように、ジャーナリズムの中心的な役割は、人々が訪れることのない世界の一部の出来事や感覚を体験させることだ。技術が進むごとに、これがより鮮明になり、「より狭い世界」が生まれた。フレデリック・ダグラスのような奴隷制度廃止論者は、写真を利用して北部の白人に奴隷の体験を伝えた[2]。ラジオは、紛争の音が世界中に響き渡るようにすることで、第一次世界大戦を真の世界大戦にするのに役立った。テレビは、ニール・アームストロングの月面着陸を何百万人もの人々が共有できるようにした。

没入型共有現実の技術は、さらに深い共感的なつながりを生み出せる。コートニー・コグバーンの研究が示唆するように、短い共感的な共有現実体験を使えば、他のメディアだと何年もかかるようなつながりが可能となる。だからジャーナリストはいずれ、これまでにない鮮明な共感で社会的分断を埋めることができるようになる。既存の仮想現実(VR)は、ヘッドセットの画質と吐き気にまつわる課題のため、これまでのところ限られた視聴者にしか届いていない。だがジャーナリストとアーティストはすでにさまざまな共感的なVR体験の先駆者になり始めている。例としては、人々が樹木のような人間以外の生命として人生を体験できるように支援するウィンスロー・ポーターの作品、世界で最も恐ろしい病気のひとつであるエボラ出血熱生存者の目から見た世界を描いたデコンティー・デイビスの作品サイバーセキュリティの世界に没入するヤスミン・エヤラットのアニメーション作品などが挙げられる[3]

しかし、これらは新興メディア成功例としての皮切りにすぎない。共有現実技術が他の感覚(嗅覚、触覚、味覚)に広がるにつれて、はるかに完全な多感覚接続が可能になり、さらに驚きと啓発をもたらす結果が生まれるはずだ。脳インターフェースは、言葉で言い尽くせないほどの変革をもたらすだろう。したがって、根本的に異なる事柄を知る力を与えてくれるジャーナリズムの未来は明るいのだ。

市民共同ジャーナリズム

インターネット時代のジャーナリズム制作における最も重要なトレンドのひとつは、いわゆる「市民ジャーナリズム」と、それと関連した「オープンソースインテリジェンス」運動の台頭だ。どちらも、従来の正式なジャーナリストや諜報アナリストとして雇用されている人々よりもはるかに多様な人々に、周囲の世界で起こる重要な出来事を記録する力を与えようとする。このようなジャーナリズムは、テロ攻撃から戦争、警察の虐待まで、近年の最も重要な出来事の多くを記録する上で中心的な役割を果たしてきた。しかし、偏見、事実の検証の厳密さ、読みやすさ、理解しやすさの面で、大きな批判や社会的懸念も受けている。

最近開発された多くの技術がこれらの問題を劇的に悪化させかねないことはすぐに予想できる。生成基盤モデル(GFM)により、リアルなフェイクの作成がはるかに容易になり、厳密で複数のソースによる検証が行われていない素材に対する不信が広がるだろう。反ソーシャルメディアのエコーチェンバーにより、そのような検証なしでもフェイクが広まることを許し、誤解を招くコンテンツと人々がそれを信じる状況が蔓延するはずだ。

しかし、テクノロジーがこれらの課題を克服する方法については、同じくらい明確な前例がある。Wikipediaは分散参加によって、多くの出来事について大まかで幅広い合意に基づく説明を素早く大規模に生成できることを実証した。とはいえ、ジャーナリズムに求められる速度にはまだ達していない。ここで採り上げるツールの多くは、遠隔で大規模に厳密な検証を行うという課題と、「客観性」の枠組みとして適切な、大まかで社会の文脈における合意を迅速に実現できる。

しかし、おそらく最も興味深い可能性のひとつは、GFMを使えば一貫性があり、理解しやすく、広く普及しながらも、本物のコミュニティの声という新しい形式が可能になるかもしれないというものだ。ジャーナリズムには、コミュニティが「自ら語る」こと(多くの場合、引用やコミュニティの実践の詳細な説明を通じて)を可能にすることと、対象読者が理解できる説得力のある物語を作成することの間に長年の緊張関係があり、その記事が他の読者向けに翻訳されると、さらに大きな緊張関係が生じる。GFMを使えば、コミュニティはその成員の話し方のパターンから学び、それを統合し、検証済みの事実を取り入れ、同時にさまざまな言語やサブカルチャーの標準やスタイルにスムーズに翻訳できるようになるため、こうしたトレードオフを巧みに調整できる。これにより、ジャーナリストとして訓練されていない市民グループが、伝えるべき重要なストーリーをさまざまな人々に正確かつ明確に伝えられる。

暗号的に安全な情報源

ジャーナリズムにおいて最も頻繁にドラマ化される緊張関係のひとつは、情報源の機密性の役割をめぐるものだ。報道の信頼性を確立するために、報道対象の機密性が、秘密の情報提供者によって破られることは多い。ジャーナリストは、情報源と提供された情報の信頼性を検証するとともに、情報提供先の組織(など)に対する機密性と一般への報道の信頼性を確保する必要がある。多くの場合、機密情報提供者は、組織の規範によって共有が禁止されている情報を提供する。すると右で強調した多くの価値観(団体の保護、公共圏の完全性の確保など)との間に強い緊張が生じる。⿻のツールで、これらの困難な状況を切り抜けられるだろうか。

上記のプロセスの多くの部分は、「4–1IDと人物性」および「4–2団体と⿻公衆」で注目したツールがあれば自然に促進される。⿻公衆を保護するツールのほとんどは、組織が意図した社会的文脈の外で共有される文書の信頼性を低下させるのに使える。同時に、公的な資格情報に基づくゼロ知識証明(ZKP)を使えば、情報源の機密性を保ちつつも情報源の地位(の一部)を証明できる。しかし、どこかで折り合いをつけないと、このような戦略はすぐに「軍拡競争」になり、暗号化がエスカレートするばかりで、より良い社会的結果は実現できないこともある。

これらのプロトコルの検証手法の微妙な違いで、この行き詰まりを解消できるかもしれない。誰かが組織内で公に役職に就いている場合、その人は自分のIDの他の要素を明らかにすることなく、ZKPを使用して他の人に自分の帰属を証明できる。さらに、その人は組織内で起こっていることについて主張するとき、自分の地位についての評判だけを活用できる。しかし機密性の高い情報や広範な主張の場合、特にその人の組織内での役職が比較的低いなら、その主張を信頼できるものにするには、通常は追加の検証が必要となる。ひとつの方法は、情報提供者自身に関する(公開)情報を増やすことだが、これだとその人物の可能性が絞られるため、正体がばれかねない。もうひとつの方法は、主張の直接検証(「裏付け」)を提供することだ。ただし、これらの裏付け資料が指定検証者による署名などの技術によって保護されている場合、それを提供するには「秘密鍵」を別の人(ジャーナリストや法的権威者など)に公開するしかない。その別の人がよほど信頼できる人物でない限り、情報提供者がその別の人に搾取されたり暴露されたりするリスクが生じる。

もちろん、厳密な細部はこのプロセスの各参加者が使用する個別ツールによって大きく変わる。しかし全体としては、⿻暗号技術によって、信頼できる情報開示とプライベートな情報開示を非常に複雑に組み合わせ、コミュニティの機密性の規範の保護、そして重要な場合にはより広範な社会的利益のために個人的な犠牲を払うことで、これらの規範を上書きすることができることがわかる。

人々を結束させる物語

多くのアメリカ人はかつての報道機関を美化したがるが、反ソーシャルメディアの害を判断するときの基準となる「報道責任」の時代は、1940年代になってようやく登場したものでしかない。この時代に、「ハッチンス報道の自由委員会」が社会的責任の規範を策定し、報道機関が「公共の議論の共通の担い手」として行動し、公共の議論を進めるための共通理解の基準を作った[4]。この委員会は、民主主義社会における自由な報道機関の中心的な役割とは、自治が繁栄できるように、その問題について合意されている論点と事実(ウォルター・クロンカイト的なみんなが見て同意するニュース)、意見が分かれる点(公平性ドクトリン、両論併記)の両方をすべての市民に明らかにすることだと主張した。この時代がアメリカという国で全国的に達成したことについては、多くの人が評価しているが、⿻の本質とは、私たちが(特に今日)はるかに豊かで多様な世界に生きており、国家間、国家内、国家を超えて民主主義の拠点が数多くあるということだ。SNSの欠点は多いが、その成果のひとつは、そうした多様性がメディアエコシステムを形成するようにしたことだ。SNSは、ハッチンズ報告書の意味で親社会的なメディアを維持しつつ、そうしたエコシステムを実現できるだろうか?

前出の「5–4拡張熟議」が、自然な戦略を示唆する。SNSのアルゴリズムは、プラットフォーム内部の行動パターン(ビュー、いいね、応答、伝播、参加の選択など)と、社会科学的な分類やグループの明示的な名乗り(これについては後述)などの外部データの両方に基づいて「コミュニティ」を作る。このようなコミュニティごとに、内部の分裂をまたぐグループの「共通コンテンツ」(一般的に同意されている事実と価値観)と、コミュニティ内の重要な分裂点をアルゴリズムが指摘する。これでどのコンテンツが所属コミュニティ内でおおよそ合意されていて、どのコンテンツが分裂を招くものかを住民たちに明確にできる。さらに、そのコミュニティ内で住民が属するコミュニティとは分断された、対極に位置するコミュニティで合意されているコンテンツを、住民たちが探索できるようにもする。

このような設計は、ソーシャルメディアが個人やコミュニティに提供している、それぞれの交差するアイデンティティを形成し、自分で律する手段を提供し続ける。しかし同時に、ネットユーザーが極端または特異な意見が広く共有されていると信じ、それに同意しない人々を悪者扱いし、関連する政治的成果が達成されない場合に憤りを感じさせる「偽のコンセンサス」効果の蔓延も回避できる。またネットユーザーが「サイレント・マジョリティ」の意見に基づいて集団行動をするのが難しいという「⿻主義的無知」も回避できる[5]。さらに、おそらく最も重要なのは、ジャーナリストや他のクリエイターのインセンティブを、分裂的なコンテンツよりも人々を結びつけるストーリーへと向けなおせることだ。これは「ハードジャーナリズム」だけを超えて重要だ。これを使えば他の多くの文化形式(音楽など)も、文化の産物やファンダムを他の人と共有したい視聴者から恩恵を受けるからだ。

⿻公共メディア

ハッチンス委員会の勧告は、当時有力だった「社会的責任」キャンペーンの一環として、大手メディアに広く採用された。このキャンペーンは、最近、多くの企業の間で「環境、社会、ガバナンス」(ESG)目標への取り組みという形で復活した。しかし、このような責任を促進するさらに強固な基盤は、メディアの資金源を右記の親社会的な設計目標と整合させることだ。

個人購読も広告も、ここではあまり有望な道筋を提供してくれない。どちらも多様なコミュニティの「市民」ではなく「消費者」へのアピールを目指しているため、消費者が誘惑される「デザート」だけを提供してしまい、彼らをコミュニティと結びつけるような「野菜」とバランスをとろうとはしないからだ。SNSで人々を結びつけたいのであれば、その目標達成に熱心な組織、つまり教会、市民団体、さまざまなレベルの政府、慈善団体、大学、企業などの集合組織による資金提供を目指すべきである。

広告を多様なコミュニティからの資金に置き換えるなら、隣接業界の既存のビジネスモデルを少し広げるだけでいい。MicrosoftやSlackなどの企業が追求している最大かつ最も収益性の高いビジネスモデルのひとつは、生産性向上のために企業に業務用ソフトウェア(多くの場合、SNS的なコンポーネントを含む)を販売することだ。これらの企業は、「熱心」な従業員や党派化した従業員には関心がない。ツールの目的は、従業員を結束させて共通の目標を達成し、変化に適応することだ。したがって、新しい親ソーシャルメディアのモデルが、このような環境で自然に生まれ、その後、より広い社会的文脈で、連帯とダイナミズムに関心のある他の組織に販売されることになるのではないか。

さらに、このような組織は広告収入を捨ててもかまわないはずだ。ほとんどの民主主義政府(ドイツ、フィンランド、米国など)は、公共メディアの支援に年間10億ドル以上を費やしているし、他の文化の補助金はそれをはるかに上回る[6]。宗教メディアでさえ、2022年には米国だけで1億ドル以上を受け取った[7]。これは、Twitter(現Ⅹ)が2022年にピーク時に獲得した約50億ドルの広告収入に比肩する[8]。したがって、コミュニティのリーダーがこの分野に注目し、ソーシャルメディアがこの新しいビジネスモデルに転向すれば、さまざまなコミュニティを代表する組織が協力して、収入源として広告に取って代わる可能性はかなり高まる。

これが実現する道はさまざまだろうが、単純な方法としては、参加者が自分の共感する各種のコミュニティに参加するというものがある。各コミュニティは、コミュニティメンバーによる使用の「費用を負担」し、その見返りとして、メンバーは右で説明した、自分のコミュニティ関連のコンテンツを優先的に注目する必要がある。十分な金額を支払っているコミュニティに登録していないユーザーは、ある程度の広告を受け入れるか、サブスクリプション料金を支払う必要がある。サービスは個別のパターンからコミュニティを特定し、そのリーダーに連絡して支払いを求めることができる。つまり、SNSは、もっと⿻な公共メディアになれる。

全体として、右の例はSNSが新しい社会志向のメディア環境を強化する方法を示す。つまり、まったく異なる背景を持つ人々と深くつながれて、コミュニティや個人のプライバシーを侵害することなく、人々が集まって権威があり検証可能な方法でストーリーを伝え、私たちのコミュニティのダイナミズムと連帯のために人々を結びつけ、分断するものを理解できる環境を作り出せるのだ。


  1. Licklider and Taylor, op. cit. ↩︎

  2. John Stauffer, Zoe Trodd, and Celeste-Marie Bernier, Picturing Frederick Douglass: An Illustrated Biography of the Nineteenth Century’s Most Photographed American (New York: Liveright, 2015). ↩︎

  3. Milica Zec and Winslow Porter, Tree (2017). Decontee Davis, Surviving Ebola (2015). Yasmin Elayat, Zero Days VR (2017). ↩︎

  4. The Commission on Freedom of the Press, A Free and Responsible Press: A General Report on Mass Communications (Chicago: University of Chicago Press, 1947). ↩︎

  5. Gary Marks and Norman Miller, “Ten Years of Research on the False-Consensus Effect: An Empirical and Theoretical Review, Psychological Bulletin 102, no. 1: 72-90. Deborah A. Prentice and Dale T. Miller, ”Pluralistic Ignorance and the Perpetuation of Social Norms by Unwitting Actors“, Advances in Social Psychology 28 (1996): 161-209.偽のコンセンサスの例としては,SARS-Cov-2が研究所から漏洩したという多くの人の信念がある(「研究所漏洩仮説」). 合理主義ウェブサイトRootclaim (https://www.rootclaim.com/)は「研究所漏洩」が確率89%だとさえ評価した(つまりおよそ8対1で漏洩した). その後,学識ある素人たちが18時間にわたる反対論争の中で証拠を見せられると,事後確率としておよそ800対1の確率で漏洩ではなかったことを見出し,ここから得られるベイズ確率はおよそ10万対1で漏洩を否定するものとなった. 強力な証拠にもかかわらず,研究所漏洩の主張が続いているのは,自然発生説は感情的に響くものがないし,評価にはかなりの努力が必要なのに,得られる結果にカタルシスがなく報われないからである. 同様に⿻的無知のおかげで,アメリカでは2020年に8100万人がジョー・バイデンに投票したのに,数千人のきわめてやる気のある個人が, 2021年1月6日に選挙人投票の計数をほとんど覆すことに成功した. Jonathan E. Pekar et al., “The Molecular Epidemiology of Multiple Zoonotic Origins of SARS-CoV-2“, Science 377, no. 6609 960-966. Michael Worobey et al., ”The Huanan Seafood Wholesale Market in Wuhan was the Early Epicenter of the COVID-19 Pandemic”, Science 377, no. 6609: 951-959. ↩︎

  6. Kleis Nielsen, Rasmus, and Geert Linnebank, “Public Support for the Media: A Six-Country Overview of Direct and Indirect Subsidies,” (Oxfordshire: Reuters Institute for the Study of Journalism: University of Oxford, 2011), https://reutersinstitute.politics.ox.ac.uk/sites/default/files/2017-11/Public support for Media.pdf. ↩︎

  7. “Grants for Religious Media Organizations,” Cause IQ, n.d., https://www.causeiq.com/directory/grants/grants-for-religious-media-organizations/. ↩︎

  8. “Advertising Revenue of X (Formerly Twitter) Worldwide from 2017 to 2027,” Statista, 2023, https://www.statista.com/statistics/271337/twitters-advertising-revenue-worldwide/. ↩︎