民主主義 · 5-4
拡張熟議
すでに述べたように、SNSについてのありがちな懸念のひとつは、それが既存の社会分断を強めてしまい、「エコーチェンバー」をつくり出して、共有された現実の感覚を踏みにじってしまうということだ[1]。「協調フィルタリング」に基づくニュースフィードアルゴリズムは、ユーザーのエンゲージメントを最大化できそうなコンテンツを選択し、ユーザーの既存の信念を強化し、同じような考えのコンテンツを優先して、多様な情報からユーザーを隔離してしまう。これらのアルゴリズムが本当に政治的二極化を悪化させ、熟議を妨げているかどうかについてはさまざまな調査結果があるが、人々を「橋渡しする」という正反対の意図に基づいてこれらのシステムを設計しなおせないかと思うのは当然だろう。この最大規模の試みは、Ⅹ(旧Twitter)のコミュニティノート(旧バードウォッチ)システムだ。
コミュニティノートは、コミュニティベースの「ファクトチェック」プラットフォームである。Ⅹコミュニティのメンバーが誤解を招く可能性のある投稿にフラグを立て、投稿が誤解を招きかねない理由について、追加のコンテキストを提供する。参加者は、これらのノートをプラットフォームに送信するだけでなく、他の人が提案したノートにレーティングもつけられる。そうしたレーティングをもとに、そのノートが役立つかどうか、およびⅩプラットフォーム上に公開していいかどうかが判定される[2]。
具体的には、評価者は意見の1次元スペクトル上に配置される。このスペクトルはデータの統計分析から得られるが、実際にはほとんどの場合、西半球の多くの地域での政治の「左派と右派」の分裂に対応する。次に(または実際には同時に)、各ノートがコミュニティメンバーから受ける支持は、このスペクトル上の位置への親和性と、位置に依存しない根本的な「客観的な品質」の組み合わせに起因するものとして評価される。全体的な評価に比べ、この客観的な品質が十分に高い場合、そのノートは「役に立った」と見なされる。システムは、偏った、同じ考えを持つ利用者集団に支持されるノートを優先するのではなく、政治的および社会的断片化が引き起こす偏りを修正し、多様な利用者集団が支持するノートに報酬を与える。
このアプローチは、ソーシャルメディアのアルゴリズムとは異なったものを活用して人間の熟議を強化し、多様性をまたがるコラボレーションの原則に基づいてコンテンツの優先度を決める。これは⿻にも沿ったもので、それを現在毎週何億人もの人々が目にしているのだ[3]。この手法は、誤情報をモデレートする以前の方法と比較すると、政治情報が多様化されることが示されている[4]。
ここでは、人間の会話が持つ大きな力とその限界を探り、⿻の進歩で会話が、これまで想像もできなかったような形で多様な視点を増幅し、結びつける強力なエンジンになってくれる可能性を検討しよう。
今日の会話
最古の、おおむね最も豊かで、今でも最も一般的な会話の形態は「対面での会合」だ。民主主義の理想化された描写は、投票やメディアではなく、伝統的な部族、アテナイの市場、ニューイングランドの市役所などで行われたような、対面での会話による議論を指すのが一般的だ。最近の映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』は、トラウマを抱えたコミュニティが議論を通じて共通の行動計画を立てる様子を描写しており、この精神を見事に捉えている。友人集団、クラブ、学生、教師はすべて、対面での会話を通じて視点を交換し、学び、成長し、共通の目的を形成する。対面でのやりとりはインタラクティブな性質を持つし、参加者が物理的な状況を共有し、会話中の他の人の表情、ボディランゲージ、ジェスチャーなど、多くの非言語的な手がかりを認識できるため、非言語コミュニケーションの要素も豊かなことが多い。
それに次いで古く、最も一般的なコミュニケーションの形態は、書くことだ。対話性ははるかに低いものの、書くことによって、言葉ははるかに大きな距離や時間を超えて伝わる。通常、ひとりの「著者」の声を捉えると考えられている文書コミュニケーションは、印刷や翻訳の助けを借りて、世界中に広まる。書かれたコミュニケーションは何千年も存続し、円形劇場や拡声器よりもはるかに遠くまでメッセージを「放送」できる。
これは、重要なトレードオフを改めて示すものだ。対面での話し合いの豊かさと即時性と、書き言葉の広範な到達範囲と永続性との間で、トレードオフがあるのだ。多くのプラットフォームは、対面と書き言葉の両方の要素を融合しようとする。対面での会話は物理的および社会的に近い個人間のリンクとして機能し、書き言葉は地理的に離れた人々を結びつける橋渡しとして機能して、ネットワークを作る。The World Cafe[5]またはOpen Space Technology[6]の手法は、数十人、いや何千人もが集まり、対話のために小グループに参加し、それらの小集団からの文書メモが統合されて広く配布される。その他の例としては、憲法やルールの制定プロセス、読書会、出版物の編集委員会、グループインタビュー、調査、およびその他の研究プロセスがある。典型的なパターンは、グループが文章について審議し、それが別の熟議グループに提出され、その結果として別の文書が作成され、それがもとのグループに戻されるという手順である。これは、口頭および書面による議論に基づく司法の伝統や、学術的なピアレビュープロセスにも見られる。
この種のやり方が克服しようとしている最も根本的な課題は、多様性と帯域幅のトレードオフだ[7]。非常に多様な視点を持つ人々を会話に参加させようとすると、議論は効率が悪くなり、長くなり、高くつき、時間もかかる。これは多くの場合、明確でタイムリーな結果を出しにくいということだ。その結果、企業環境でよく嘆かれる「分析しすぎで身動きがとれない」や、「社会主義だとたくさんの晩を費やすことになる」という不満(オスカー・ワイルドの言葉とされることもある)が生じる。
一方では、会話の帯域幅と効率を高めようとすると、多様な視点を包摂するのに苦労するのが常だ。会話に参加する人々は、地理的に分散していることが多く、言語も違い、会話規範も異なる。会話スタイル、文化、言語の多様性は、相互理解を妨げがちだ。さらに、全員の意見を長時間聴くことは不可能なので、幅広い社会的多様性をまたがる会話には、何らかの代表制の考え方が必要となる。これについては後述する。
おそらく、これらすべてのアプローチの根本的な限界は、「ブロードキャスト/放送」(多くの人がひとつの発言を聞ける)の手法が劇的に改善された一方で、「ブロードリスニング/幅広く聴く」(ひとりの人がさまざまな視点を思慮深く消化できる)が依然として非常にコストがかかり、時間がかかるということだ[8]。ノーベル経済学賞受賞者で、計算機科学の先駆者ハーバート・サイモンが述べたように、「情報の豊富さは注意力の貧困を生み出す[9]」。多様な視点を検討するときに個人が注げる注意力には認知的な限界があるので、多様性と帯域幅、および豊かさと包摂性の間には大きなトレードオフが生まれかねない。
過去も現在も、こうした課題を大規模に解決するために、さまざまな戦略が使われてきた。会話のための代表選出には各種の手法がある。
①選挙:選挙運動と投票プロセスによって代表者が選ばれる。代表者は地理的集団や政党集団に基づいて選ばれるのが通例となる。これは政治、労働組合、教会で最もよく使われる。幅広い参加、正当性、専門知識をある程度付与できるという利点があるが、しばしばあまりに硬直的で高価だ。
②抽選:複数のグループがランダムに選ばれる。グループ間のバランスを保つために、抑制や制約が課されることもある。これは、グループインタビュー、アンケート、および論争の多い政策問題についての市民審議会[10]で最も一般的に使用される[11]。低コストで妥当な正当性と柔軟性を維持できるが、専門知識を犠牲にし(またはそれにより補完する必要があり)、参加が制限される。
③管理運営:官僚的な割り当て手順によって、「実力」または管理上の決定に基づき、関連するさまざまな視点や構成員を代表する人々が選出される。これは企業やおよび専門組織で最も一般的に使用され、低コストで比較的高い専門知識と柔軟性を持つ傾向があるが、正当性と参加は低くなる。
熟議の参加者が選ばれて集まっても、その人々の間で有意義な対話を促進するのも同じくらい難しく、それ自体が技能とすら言える。どんなコミュニケーションの様式やスタイルでも、すべての参加者の意見が十分に考慮されるためには、明確な目的と議題の設定、積極的な参加、小グループによる分科会、メモの慎重な管理(しばしば多くの小集団の会話の「収穫」とさえ呼ばれる)、順を追った発言、積極的な傾聴の奨励、そして多くの場合、聴覚と視覚のコミュニケーションスタイルにおける能力差の間での翻訳と調整など、さまざまなソーシャル技術と実践が必要となる。過去50~60年間で、「対話と熟議」に関する研究と手法の非常に豊富な分野が革新され、対話熟議全国連合(National Coalition For Dialogue & Deliberation)はそれを探求する拠点となった[12]。これらのツールは、包括的で民主的な統治の試みにしばしば影響を与える「構造がないことによる暴政」を克服するのに有益だ。これは、不公平な非公式の規範と支配的な階層構造が、包摂的なやりとりの意図を押し潰してしまうという現象を指している[13]。
デジタル技術の適切な使用で、議論のためのソーシャル技術を強化できる。この2つの組み合わせが効果を発揮することもある。物理的な移動距離は、かつては熟議の大きな障害だった。しかし、電話会議やビデオ会議によってこの課題は大幅に緩和され、さまざまな形式の遠隔会議や仮想会議が、重要な議論の場として当たり前のものとなっている。
電子メール、掲示板/ユーズネット、ウェブページ、ブログ、そして特にSNSなど、インターネットを介した書き込みの増加により、書面コミュニケーションにおける「インクルージョン」は大幅に拡大した。これらのプラットフォームは、ユーザーインタラクション(「いいね」や「再投稿」など)やアルゴリズムによるランキングシステムを通じ、個人が簡単に認知と関心を集めるユニークな機会を提供する。このパラダイムシフトにより、かつては従来のメディアの編集手順によって厳格に管理されていた一般の人々への情報の拡散が可能になった。ただし、これらのプラットフォームが関心を最適に配分できているかどうかは、依然として意見が分かれる。共通の欠点は、情報の拡散におけるコンテキストとしっかりしたモデレーションの欠如で、これが「誤情報」や「偽情報」の拡散や、十分なリソースを持つ組織の優位性などの問題の一因となっている。さらに、アルゴリズムによるランキングへの依存により、意図せず「エコーチェンバー」が生まれ、ユーザーが自分の既存の信念を反映した狭いコンテンツストリームに閉じ込められ、多様な視点や知識に触れる機会が制限されかねない。
明日の会話
最近の進歩により、トレードオフの力学が徐々に変化し、効率的でネットワーク化された、充実した対面熟議の共有が可能になった。同時にこれらの開発により、ますます包摂性の高まるソーシャルメディアで、思慮深く、バランスのとれた、文脈に沿ったモデレーションが促進され、これらのプラットフォームの全体的な品質と範囲が向上している。
「2–2デジタル民主主義の日常」で説明したように、台湾で最も成功した例にvTaiwanがあり、これはPolisと呼ばれるOSSを使っている[14]。このプラットフォームは、ⅩなどのSNSとの共通点もあるが、関心の配分とユーザー体験の中に、包摂的なファシリテーション原理の一部を抽象化して組み込んでいる。Ⅹと同様に、ユーザーはプロンプトに対して短い応答を送信する。しかし互いのコメントを増幅したり返答したりするのではなく、単に賛成または反対の投票を行うだけだ。これらの投票は集計され、ユーザーの視点を形成する共通の態度がパターン抽出される。各種意見グループの視点を強調する代表的な発言が表示され、ユーザーが重要な視点を理解できるようにする。また分裂を「橋渡し」する視点、つまり、分裂のどちら側でも同意を得られている視点も表示される。この進化する会話に応答して、ユーザーは、橋渡しをさらに促進しそうな追加の視点を提供したり、既存の立場を明確にしたり、まだ目立っていない新しい意見グループを引き出したりできる。
Polisは、一流の技術者アヴィヴ・オヴァジャとルーク・ソーバーンが「集合応答システム」や「橋渡しシステム」と呼び、他の人が「wikisurvey」と呼ぶものの典型例だ[15]。その他の代表的な例としては、All Our IdeasやRemeshなどがあり、どれもユーザーエクスペリエンス、オープンソースの度合い、その他の機能に関してさまざまなトレードオフがある。これらのシステムに共通するのは、SNSの参加性、オープンでインタラクティブな性質と、思慮深い傾聴、会話力学の理解、共有された見解や大まかな合意点の理解の慎重な出現を促す機能を組み合わせていることだ。このようなシステムは、配車アプリの規制や、主要な生成基盤モデル(GFM)の方向性など、ますます重要な政策や設計の決定を行うために使用されている[16]。特に、Anthropicが⿻NGOであるCollective Intelligence Project(CIP)と協力して最近リリースしたClaude3モデルは、多くの人からGFMの現在の最先端と考えられており、モデルの動作を誘導する憲法を抽出するのにPolisを使用した[17]。現在、GFMのもうひとつの主要プロバイダOpenAIも、CIPと緊密に連携して「AIへの民主的な入力」に関する助成金プログラムを運営し、この分野の研究を劇的に加速させた。そのプログラムに基づいて、OpenAIのモデルの運営にこれらの入力を組み込む「集合アライメントチーム」が現在結成されている[18]。
同様の目標を持ちながらも出発点が少し逆のアプローチとして、対面での会話を中心に据えつつ、洞察をネットワーク化して共有する方法を改善する試みもある。このカテゴリの代表的な例は、マサチューセッツ工科大学の建設的コミュニケーションセンターが市民社会の協力者と共同で開発したCorticoというアプローチだ。このアプローチと技術プラットフォームの別称はForaと呼ばれ、本書の第4章で説明したIDおよび関連付けプロトコルと自然言語処理を組み合わせて、難しいトピックに関する会話の録音を保護および非公開にしつつ、そこから得られる洞察を浮上させ、それをこれらの会話全体に伝え、さらなる議論が起こるよう刺激する。コミュニティメンバーは、発言者の許可を得て、政府、政策立案者、組織内のリーダーシップなどの利害関係者に重要なハイライトを伝える。Corticoはこの技術を使用し、2021年にミシェル・ウーがボストンで米国大都市初の台湾系アメリカ人市長に選出された時など、市民活動に対する情報提供を行ってきた[19]。十分なサービスを受けていないコミュニティと協力して、詳細な会話データを介して視点を求める行為は、高速コミュニケーションの様式にはない正当性をこの取り組みに与える。StoryCorpsやBraver Angelsなどの組織では、さまざまな洗練度を持つ類似ツールが使用され、何百万もの人々の意見をまとめている。
3番目のアプローチは、参加者に新しいコンテンツの作成を促すのではなく、既存のメディアコンテンツややりとりを活用し、それを整理しようとするものだ。これは、「デジタル人文学」に関する学術研究と密接に関連しており、コンピューティングを利用して人間の文化的成果を大規模に理解および整理するアプローチだ。ソーシャル・ライブラリーのような組織は、政府の文書、SNS、書籍、テレビなどからの資料を収集し、手持ちの事実を表面化させるなど、議論の概要を明確にして市民に提供する。この実践は、以下で説明する各種のツールを使って異なる場所での会話をネットワーク化し、熟議の規模を拡大する。デジタル技術の活用により右記の伝統を拡張することで、これはますますスケーラブルになっている。
他にも、「5–2没入型共有現実(ISR)」の部分で説明した手法と密接に連携した実験的な取り組みとして、遠隔地の間での熟議の深さと質を高め、対面でのやりとりに見られる豊かさと即時性を再現する試みがある。最近の劇的な実例は、MetaのCEOであるマーク・ザッカーバーグと著名なポッドキャストホストのレックス・フリードマンとの会話[20]だ。両者は仮想現実の中でも相手の細かい表情を認識できた。もっと地味ながらも意義深い例は、ポータル警察プロジェクトだろう。このプロジェクトでは、警察の暴力が見られる都市に貨物コンテナが設置され、物理的および社会的距離を越えて、そのような暴力に関する経験をビデオベースで豊かに話し合えた[21]。その他の有望な要素としては、高品質で低コストで、ますます文化に配慮した機械翻訳ツールや作業の普及がある。それにより同様のシステムを活用し、人々が自然言語による文章から価値観を統合し、共通の基盤を見つけることができる。
拡張熟議のフロンティア
実験の中でも野心的なものは、さらなる未来を指し示している。特にGFMの言語機能を活用して「ブロードリスニング」の問題にさらに取り組み、これまで想像もできなかった質と規模の審議を可能にするというものがある。インターネットで大規模なコラボレーションが可能なのは、共同作業のできる空間を減らすからだ。たとえばそれを売買の市場取引に還元し、情報伝達も5つ星評価システムなどにより似たような形で削減したりする。情報を伝達して理解する能力がうまく向上すれば、困難で微妙な社会問題についての熟議能力もそれに応じて向上するはずだ。
活発に開発されている最も明らかな方向性のひとつは、Polisやコミュニティノートなどのシステムを現代のグラフ理論とGFMで拡張する方法となる。たとえば、AI目的研究所(AI Objectives Institute[22])のTalk to the Cityプロジェクトは、GFMを使用して集団の見解を特徴づける主張の一覧を、対話型エージェントに置き換えられるそうだ。このエージェントと会話すれば、そうした視点がわかるのだ。まもなく、参加者はGFMを通じ、限られた短い主張や単純な賛成/反対の投票を超えて、会話に反応して自分自身を完全に表現できるようになる。一方、モデルはこの会話を要約し、その後参加できる他の人が読みやすいようにする。モデルは、単に共通の投票だけでなく、表明された立場の自然言語理解と応答に基づいて、大まかに合意できる部分を探すことにも役立つ。
このような最先端のアプローチは、政策審議やコミュニティの対話だけでなく、選挙プロセスにも現れ始めている。2024年の東京都知事選挙では、安野貴博候補がGoogleスライドやGitHubを活用してマニフェストを発表し、ⅩやGoogleフォーム、AIによる着信やGitHubで有権者の意見を募り、Talk to the City[23]で視点を可視化し、GitHubのディスカッションで政策を練り直した[24]。さらに、24時間体制で質問に答えるAIのバーチャルアバターを(AIあんの[25])YouTubeに展開することで、「ブロードリスニング」のインタラクティブな形を示した。安野は比較的無名の候補者であったにもかかわらず、15万を超える票を集めた。これは、Talk to the Cityに代表される技術的な可能性と、vTaiwanやPolisのようなプラットフォームの参加型、熟議型の特質が、選挙領域に有意義に拡張できることを示唆している[26]。
最近の大規模な研究によれば、このようなツールはオンラインの民主的な議論の強化に貢献する。その実験では、会話の参加者たちによる政治的な議論の質を高めるため、GFMを使って証拠に基づく提案をリアルタイムで提供した[27]。結果として、会話の全体的な質が著しく向上し、民主的で対話のあるアイデアの交換が促進された。
「橋渡しシステム」に関する議論のほとんどは合意形成を重視するが、もうひとつの強力な役割は、多様性と生産的な対立の再生を支援することだ。一方でこうしたシステムは、歴史的前提やアイデンティティだけでは決まらない、さまざまな意見グループを選り分けるのに役立つ。それにより、こうした集団が互いを見つけ、その視点を中心に団結できるようになるかもしれない。その一方では、多様な支持を得ているコンセンサスの立場を代表する視点を浮上させることで、それが多様な反対意見をつくり出し、そうした反対意見が既存の分裂とは別の新しい対立をもたらし、その視点を中心に団結が起こる可能性もある。つまり、集合的な対応システムは、対立を動的にマッピングして進化させるのに大きく貢献するだけでなく、生産的な対立のナビゲート支援にも役立つのだ。
同じような考え方で、コミュニティノートの設計要素を活用して進化させ、SNSの力学をもっとホーリスティックに作り直すことも考えられる。現在、このシステムはプラットフォーム全体のすべての意見を単一のスペクトル上に並べているが、プラットフォーム内のさまざまなコミュニティをマッピングし、その橋渡しに基づくアプローチを利用して、コミュニティノートの優先度を決めるだけでなく、そもそも注目すべきコンテンツの優先度を高めてもよい。さらに橋渡しは、プラットフォーム全体だけでなく、さまざまな規模で、さまざまな交差グループに適用できる。
以下の「6–3メディア」の部分で強調することだが、将来的にはフィード内のさまざまなコンテンツが橋渡し的なものとして強調表示され、メンバーであるさまざまなコミュニティ(宗教コミュニティ、物理的にローカルなコミュニティ、政治コミュニティ)間で共有され、さまざまな社会的所属におけるコンテキストと共通の知識と行動を強化できるかもしれない。
社会生活のこのような動的な表現は、対面や豊かな没入型共有現実(ISR)など、より深い熟議のための参加者の代表と選択へのアプローチを、劇的に改善することができそうだ。関連する社会的差異を豊かに説明できれば、どの集団の意見を求めるべきか見極めるにあたり、地理や単純な人口統計や技能以上のものを使えるかもしれない。それに代わるものとして、アイデンティティの十全な交差性の豊かさを、包摂と代表選出を考慮するための基礎としてますます活用できるようになるかもしれない。そして、それで定義されたメンバーが選挙権を持つことになるのだ。または抽選の代わりに、たとえば既知の社会的つながりと所属に基づいて、最も疎外されたメンバーたちが、なるべく疎外されないように代表を出せる集まりを選択するなど、熟議のために最大限に多様な委員会を選択するプロトコルを考案できる。このようなアプローチは、抽選、管理、選挙の利点の多くを同時に実現可能だ。特に、「5–6⿻投票」の節で説明する流動的な民主主義のアプローチのいくつかと組み合わせると、その可能性が高まる。
代表の概念をさらに根本的に再考できる可能性すらある。GFMは、個人のアイデアやスタイルをより正確に模倣するように微調整できる[28]。Talk to the Cityのように、そのコミュニティのテキストでモデルを訓練すると、そうした人工知能はひとりの視点を表すのではなく、その集団のかなり直接的な代表として機能し、そのグループを代表するはずの人物の裁量を補助、補完、またはチェックできる可能性がある。
極度に大胆な発想として、このアイデアは原理的には生きている人間以外にも拡張できる。これについては、「6–4環境」で詳述する。哲学者のブリュノ・ラトゥールは『虚構の「近代」科学人類学は警告する』の中で、自然の特徴(川や森林など)は「物の議会」に代表を出せるべきだと主張した[29]。もちろん問題は、それらがどうやって発言するかということだ。GFMは、そうしたシステムの状態の科学的測定を、一種の「ロラックス」に変換できるかもしれない。ロラックスは、自分では話せない木や動物を代弁する、ドクター・スースの児童書に出てくる架空の生き物だ[30]。キム・スタンリー・ロビンソンの『未来省』のように、まだ生まれていない将来の世代についても、同様の代表を考えられるかもしれない[31]。良くも悪くも、このようなGFMベースの代表者は、ほとんどの人間が理解できるよりも速く熟議を実行し、その後、その要約を人間の参加者に伝えられるだろう。これにより、個人を含む熟議が可能になり、自然言語交換の他のスタイル、速度、スケールも含められるようになる。
拡張熟議の限界
自然言語は人間の交流の中心にあるため、それが持つ厳しい限界のことはつい忘れがちになる。言葉は数字よりも豊かな表象だが、人間の感覚体験の豊かさ、さらには深部感覚には比べものにならない。「筆舌に尽くしがたい」ことは、筆舌に尽くせるものよりはるかに多いのだ。言葉がどんな感情的な真実を持っていても、それは単なる情報にすぎない。だから言葉によるやりとりよりも、共通の行動や体験に注目するほうがずっと論理的だとさえ言える。したがって、どれだけ熟議が進んだとしても、すでに説明したもっと豊かな形のコラボレーションの代わりにはならない。
だがここで説明した高度な方法を用いても、話し合いには時間がかかる。多くの決定は熟議が完全に終わるまでは待てない。特に、大きな社会的距離を埋める必要がある場合は、一般的にプロセスが遅くなる。以下で説明するコラボレーションへの他のアプローチは、タイムリーな決定の必要性というありがちな問題に対処するものだ。
議論のペースの遅さを克服できる方法の多く(たとえば、大規模言語モデル(LLM)を使用して部分的に「コンピュータによる」熟議を行う)は、会話のもうひとつの重要な限界を示している。他の方法は、多くの場合、簡単に透明性を持たせられるので、広く正当性を持てる。だが会話が入力を受け取り、出力を生成する方法は、人間同士だろうと機械だろうと、完全には説明しづらい。
実際、自然言語を機械に入力し、機械に口述筆記をさせることでさえ、単に洗練された非線形の投票形式だとも言える。しかし、次の2つの節で説明する管理ルールと投票ルールとは対照的に、この変換の中身について共通の理解と正当性を獲得し、投票や市場のような共通の行動の基礎にすることはかなり難しいかもしれない。したがって、こうした他の仕組みから生じる熟議の発生方法と実施方法に対する抑制は、今後当分重要になりそうだ。
さらに、民主的なプロセスでの熟議は、人間がますます有能になるGFMをまともに監査できるかどうかによっても制約される。GFMはまた、指示に盲目的に従うため、一部の観点を検閲しかねないことも実証されている[32]。適切な⿻モデルとなるためには、さまざまな合理的な応答を提供し、さまざまな観点に適応してそれを反映できるようにし、個別集団のニュアンスに合わせて正確に調整する必要がある。
最後に、熟議は、分裂を克服して真の「共通の意志」に到達することに役立つのだ、と理想化されがちだ。しかし、重複点や大まかな合意への到達は共通の行動にとって重要だが、多様性と生産的な対立を再生してダイナミズムを促進し、将来の熟議への生産的な入力を確保することも重要だ。したがって、熟議と他のコラボレーション様式とのバランスを考えるにあたっては、右で説明したように、紛争の解決と爆発的な紛争の緩和と同じくらい、生産的な紛争を刺激することも常に重視する必要がある。
Cass Sunstein, republic.com (Princeton, NJ: Princeton University Press, 2001) and #republic: Divided Democracy in the Age of Social Media (Princeton, NJ: Princeton University Press, 2018). ↩︎
Vitalik Buterin, “What do I think about Community Notes?” August 16, 2023 at https://vitalik.eth.limo/general/2023/08/16/communitynotes.html. ↩︎
Stefan Wojcik, Sophie Hilgard, Nick Judd, Delia Mocanu, Stephen Ragain, M.B. Fallin Hunzaker, Keith Coleman and Jay Baxter, “Birdwatch: Crowd Wisdom and Bridging Algorithms can Inform Understanding and Reduce the Spread of Misinformation”, October 27, 2022 at https://arxiv.org/abs/2210.15723. ↩︎
Junsol Kim, Zhao Wang, Haohan Shi, Hsin-Keng Ling, and James Evans, “Individual misinformation tagging reinforces echo chambers; Collective tagging does not,” arXiv preprint arXiv:2311.11282 (2023), https://arxiv.org/abs/2311.11282. ↩︎
“The World Cafe”, The World Café Community Foundation, last modified 2024 (https://theworldcafe.com/). ↩︎
“Open Space”, Open Space World, last modified 2024, https://openspaceworld.org/wp2/. ↩︎
Sinan Aral, and Marshall Van Alstyne, “The diversity-bandwidth trade-off,” American journal of sociology 117, no. 1 (2011): 90-171. ↩︎
知る限りでは「ブロードリスニング」というこの概念はアンドリュー・トラスクが最初である.しかしそれについては文書で参照されているのを見たことがないので,ここで彼がきちんとクレジットを与えられるようにしたい. ↩︎
Herbert Simon, “Designing Organizations for an Information-Rich World,” In Computers, Communications, and the Public Interest, edited by Martin Greenberger, 38–72. Baltimore: The Johns Hopkins Press, 1971. https://gwern.net/doc/design/1971-simon.pdf. ↩︎
A Citizen Deliberative Council (CDC) article on the Co-Intelligence Site https://www.co-intelligence.org/P-CDCs.html ↩︎
Tom Atlee, Empowering Public Wisdom (2012, Berkley, California, Evolver Editions, 2012) ↩︎
Liberating Structures (2024)には,人々が解放的なやり方で協働作業をするための33の手法がある. Participediaは手法や事例研究を挙げた,公共参加と民主的イノベーションプラットフォームである. 良好で効果的なプロセスの根底にあるパターンの核心に切り込むため,両コミュニティはパターンランゲージを構築した. 1) The Group Works: A Pattern Language for Brining Meetings and other Gatherings (2022) および 2) The Wise Democracy Pattern Languageである. ↩︎
Jo Freeman, “The Tyranny of Structurelessness.” WSQ: Women’s Studies Quarterly 41, no. 3-4 (2013): 231–46. https://doi.org/10.1353/wsq.2013.0072. ↩︎
Christopher T. Small, Michael Bjorkegren, Lynette Shaw and Colin Megill, “Polis: Scaling Deliberation by Mapping High Dimensional Opinion Spaces” Recerca: Revista de Pensament i Analàlisi 26, no. 2 (2021): 1-26. ↩︎
Matthew J. Salganik and Karen E. C. Levy, “Wiki Surveys: Open and Quantifiable Social Data Collection” PLOS One 10, no. 5: e0123483 at https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0123483. Aviv Ovadya and Luke Thorburn, “Bridging Systems: Open Problems for Countering Destructive Divisiveness across Ranking, Recommenders, and Governance” (2023) at https://arxiv.org/abs/2301.09976. Aviv Ovadya, “‘Generative CI’ Through Collective Response Systems” (2023) at https://arxiv.org/pdf/2302.00672.pdf. ↩︎
Yu-Tang Hsiao, Shu-Yang Lin, Audrey Tang, Darshana Narayanan and Claudina Sarahe, “vTaiwan: An Empirical Study of Open Consultation Process in Taiwan” (2018) at https://osf.io/preprints/socarxiv/xyhft. ↩︎
Anthropic, “Collective Constitutional AI: Aligning a Language Model with Public Input” October 17, 2023 at https://www.anthropic.com/news/collective-constitutional-ai-aligning-a-language-model-with-public-input. ↩︎
Tyna Eloundou and Teddy Lee, “Democratic Inputs to AI Grant Program: Lessons Learned and Implementation Plans”, OpenAI Blog, January 16, 2024 at https://openai.com/blog/democratic-inputs-to-ai-grant-program-update. ↩︎
Meghna Irons, “Some Bostonians Feel Largely Unheard, With MIT’s ‘Real Talk’ Portal Now Public, Here’s a Chance to Really Listen,” The Boston Globe, October 21, 2021, https://www.bostonglobe.com/2021/10/25/metro/some-bostonians-feel-largely-unheard-with-mits-real-talk-portal-now-public-heres-chance-really-listen/. ↩︎
Amer Bakshi, Tracey Meares and Vesla Weaver, “Portals to Politics: Perspectives on Policing from the Grassroots” (2015) at https://www.law.nyu.edu/sites/default/files/upload\_documents/Bakshi Meares and Weaver Portals to Politics Study.pdf. ↩︎
2024年6月21日から7月6日までの15日間で, 232件の課題が提起され, 104件の変更提案が提出され, 85件が採択された. ↩︎
16日間の期間中, AIあんのは約7,400件の質問に回答した.これは,講演者ひとりに対して複数の視聴者がいる講演形式において,ひとりの回答者が対応できる能力を大幅に上回る数字である. ↩︎
15万票は全体の2.3%を占め,過去22回の都知事選で30代候補としては最多得票となった.安野は5位だった.知名度が上がったことを受け, 10月15日の衆議院特別選挙では, Talk to the Cityを使って現職政治家と市民の懸念を対峙させた. 2024年11月22日からは, 2050年に向けた東京の長期計画のための一般意見を募るプロジェクトにTalk to the Cityを活用している. 2024年12月13日段階で, 1万件を超える意見が集まっており,一般からの意見募集としては異例の反響となっている. ↩︎
Lisa Argyle, Christopher Bail, Ethan Busby, Joshua Gubler, Thomas Howe, Christopher Rytting, Taylor Sorensen, and David Wingate, “Leveraging AI for democratic discourse: Chat interventions can improve online political conversations at scale.” Proceedings of the National Academy of Sciences 120, no. 41 (2023): e2311627120. ↩︎
Junsol Kim, and Byungkyu Lee, “Ai-augmented surveys: Leveraging large language models for opinion prediction in nationally representative surveys,” arXiv (New York: Cornell University, November 26, 2023): https://arxiv.org/pdf/2305.09620.pdf. ↩︎
Bruno Latour, We Have Never Been Modern (Cambridge, MA: Cambridge University Press, 1993). 〔『虚構の「近代」 科学人類学は警告する』ブルーノ・ラトゥール著, 川村久美子訳・解題, 新評論, 2008〕 ↩︎
Dr. Seuss, The Lorax (New York: Random House, 1971) ↩︎
Kim Stanley Robinson, Ministry for the Future (London: Orbit Books, 2020).〔『未来省』キム・スタンリー・ロビンスン 著, 瀬尾具実子訳, 山田純 科学・経済監修, パーソナルメディア, 2023〕 ↩︎
David Glukhov, Ilia Shumailov, Yarin Gal, Nicolas Papernot, and Vardan Papyan, “LLM Censorship: A Machine Learning Challenge or a Computer Security Problem?” arXiv (New York: Cornell University, July 20, 2023): https://arxiv.org/pdf/2307.10719.pdf. ↩︎