職場

世界中で10億以上の人々が、自宅の外で、複数の他人と正式な組織で働いている[1]。これらの「職場」は世界の生産の約70%を生み出しており、「経済」と聞いてほとんどの人が真っ先に思い浮かべるものだ。職場は世界経済に大きく貢献しているため、生産性の足を引っ張る非効率性に対処しなければならない。米国の労働者は、非生産的と見なされる会議に平均して1カ月あたり31時間を費やしており、時間とリソースの両方を大幅に浪費している[2]。経済を再考するには、正規職を再構築する必要がある。ここでは、それを説明しよう。

私たちが論じる進歩は、リモートチームの強化、効果的な企業キャンパスの設計、コミュニケーションの改善、包摂的な人材へのアクセス、共通の企業インフラのより効果的な提供と変化する業界へのより動的な適応の支援だが、これらは職場で考えられる⿻の影響のほんの一例でしかない。私たちの推計では、最初の4つは世界GDPを約10%増やせるし、最後の要素はGDP成長率を年率0・5ポイント永続的に引き上げられる[3]


強力なリモートチーム

新型コロナウイルスのパンデミックは仕事の世界を一変させ、数十年かかると思われていた変化を1年で実現させた。たとえば、ホセ・バレッロらによる先駆的な研究では、在宅勤務が米国の労働力の5%から60%以上に上昇したという[4]。おそらくその最も極端な現れは、いわゆる「デジタルノマド」の台頭だろう。彼らは、サルデーニャ島のデジタルノマド地域プログラムや、著者グレン・ワイルが保有するエストニアと台湾の電子市民権ゴールドカードなどのプログラムに後押しされて、継続的に旅行し、さまざまなリモートジョブに就くリモートワークの機会の増加を活用している。パンデミックの終息以来、物理的な仕事への復帰が大幅に進んだが、少なくとも変化の一部は今後も続くだろう。バレッロらの研究では、パンデミック後の労働者は平均して週の半分ほどを自宅で働きたいと考えており、在宅勤務の生産性が同等かそれ以上だと考えている。一部の研究では、生産性がわずかに低下したという証拠がいくつか見つかったが、ハイブリッドなワークスタイルに対する根強い需要を潰すほど大きくはないらしい[5]

しかし、リモートワークに本当の欠点があることは確かだ。ワークライフバランスの確保、気を散らすものや不健康な在宅勤務環境の回避など、欠点のいくつかはリモートコラボレーションツールでは簡単に対処できない。しかし、他の多くの欠点は対処可能だ。たとえば同僚との自然なやりとりの欠如、フィードバックの機会の喪失、同僚とのより深い個人的なつながりの形成などだ[6]。⿻はこれらのほとんどに対処できるが、ここでは強力で深く信頼関係のあるチームの構築に焦点を当てよう。

遠隔没入型共有現実(ISR)は、仮想環境での共同作業と創造的なチームワークを促進することで、分野を超えたチーム構築と研修を大幅に強化する。仮想環境でのグローバルコラボレーションは、特に医療教育[7]での学際的なチームワークに効果的であり、地理的障壁を克服するうえでの有用性が指摘されている[8]。仮想世界は、個人的な表現のためのアバター、共存のための没入型体験、環境を変更するためのツールを提供することでチームの創造性を育み、分散したチーム間での創造的なコラボレーションを強化する[9]。さらに、3D仮想世界とゲーム用に作られたSecond Lifeのようなものをチーム構築用に使えば、チームメンバー間のコミュニケーション、感情的な関与、状況認識を強化するための費用対効果の高いソリューションを提供し、安全性が重要な分野でのチームワークに不可欠であることが証明されている[10][11]

対面チームは、チームの信頼、つながり、精神を構築するために、さまざまな共同学習など生産に直接関係しない活動に従事することも多い。これらは、カジュアルなランチから、トラストフォール[12]、模擬軍事演習、ロープコースなどのさまざまな種類のエクストリームチームスポーツまで多岐にわたる。これらのほぼすべてに共通しているのは、メンバー間の信頼から利益を得て、信頼構築に役立つ共有アクティビティを作り出すことだ。これは、ポスト表象コミュニケーションに出てきた、共に軍務を経ることで強力で永続的な協力関係が生まれるという話に似ている。

明らかに、現在、こうした活動のほとんどは対面に大きく依存しているため、ハイブリッドチームや完全リモートチーム、特にリモートワーカーとしてスタートしたメンバーが多いチームは、こうした活動によって得られるチーム構築の便益を得られなかったり、それを実現するためにかなりの旅費が必要だったりする。ISRは、この課題を克服する大きな可能性を秘めている。たとえば詳細な表情を反映するアバターなど、十分にリアルなアバター同士のランチは、オフィスで得られる豊かなつながりをリモートチームにももたらすことができるかもしれない。パーティーやエクストリームスポーツの鮮明なつながりを、リモートの共有現実で実現するのは不可能にも思えるが、十分にリアルなシミュレーション環境があれば、恐怖と信頼のリアルな体験を育めるという強力な証拠が増えている[13]。「eスポーツ」が、対面の物理的なスポーツの人気、および適切なISR環境での物理的な激しさに匹敵するものになれば、「キャンパス運動(Campus athletics)」のメリットがリモートワークにますます浸透するかもしれない。

しかし、遠隔レクリエーションで対面チームのアプローチを模倣するさらに有望な方法は、デジタルツールを利用して、深いデジタル補助なしでは不可能なつながりを作り出すことだ。最も単純な例は、対面でシミュレートすることが危険だったり、不当にコストがかかったりするエクストリームスポーツや軍事シナリオの拡張だ。これらはほんの皮切りでしかない。最終的には、直接的な神経インターフェースにより、親密な共感を遠隔で共有できるようになり、それを制限するものは物理的な距離の障壁ではなく、主に職業上の礼儀だけになるかもしれない。

包摂的なキャンパス設計

多くの仕事、特にホワイトカラーの仕事は、大規模な「企業キャンパス」に物理的にかなり限定されている。これらのキャンパスが集める機能の多くで、異質性が高く組織的に離れているが、広範囲にわたる共同配置が重視されがちなのは、偶然の出会いが会社内の部門間の仕事で刺激になると思われているからだ。このような「集積」効果は、都市の経済的利益の重要な源であることが多くの経済文献で示されている[14]。企業キャンパスの中心的な役割は、企業内でこうした便益を確保することだ。

しかし、この目標を達成するには、慎重な設計が必要となる。組織や分野による過度の分離や、コア業務への過度の集中は、集合的な突発性という便益を損なう。組織や分野の過度の断片化は、直接的な生産性を損なう。キャンパスのさまざまな要素(通路、食堂、オフィス、共有スペース、レクリエーション施設など)は、直接的な仕事と自発的なつながりを促進する上で多くの役割を果たす。たとえば、スティーブ・ジョブズは、ピクサーの本社を設計しなおし、大きな劇場、カフェテリア、メールボックス、視聴室を備えた中央アトリウムを作った[15]。コンピュータ科学者、アニメーター、その他のスタッフの共有スペースでの交流を奨励することで、このレイアウトは偶然の出会いと相互交流を促進する。しかし、建物の改修には大きな課題がある。費用がかかり、業務の性質やブランドアイデンティティなど、各企業に固有の他の要素をサポートする必要があるのだ。標準的なベストキャンパスデザインが存在しないのも当然だろう。キャンパスのデザインは企業ごとに大きく異なり、その代表例はAppleの「トーラス宇宙船」だ。探索コストを削減できるものなら何でも、質の大きな向上につながる。

Apple's torus-shared campus, seen from above.

写真 6-1-A Apple の、変わった形で有名な企業キャンパス



出典: Unsplash, Author: Carles Rabada[16]

このような実験を劇的に容易にする自然な方法は、ISRキャンパスを作成することだ。そうすれば従業員が場所の構成をいろいろ試し、仮想会議に参加できる。そうした構成は、物理的なキャンパスを構築するよりもはるかに迅速かつ柔軟にプロトタイプ化できるため、従業員が仮想会議に参加しているその場でさまざまな検討が行える。フィードバックに基づいて、従業員はスペースの再設計を手伝い、レイアウトを何度もやり直せる。設計案が目的をかなりうまく達成し、実際の敷地にも適合していると判断されたら、もっと標準的なエンジニアリングおよび建設プロセスを通じてそれを「印刷」すればいい。つまり、これらのツールにより、物理的なスペースの設計は、ワードプロセッサと共同ドキュメントが文書作成にもたらしたもの、つまり、大幅に拡張する前に幅広い実験を行い、さまざまなフィードバックを蓄積できるプロセスに非常に近づく。

難しい会話

会議はホワイトカラー業務の中心であり、平均して労働時間の約4分の1を消費する[17]。しかしこれほどの時間を会議に費やしているとはいえ、むしろコストが大きいのは、負担が大きくなるので開催されない会議のほうだ。ビジネスリーダーは、関係するステークホルダーとの会議に時間がかかりすぎるため、顧客のニーズ、チーム内の課題、作業の重複を誤解することも多い。さらに悪いことに、声高な人ばかりが発言し、権限が弱い人や主張が弱い人の知恵が反映されないので、多くの会議はまったく効果がない。ホワイトカラー業務では、会議は時間の無駄として有名で、オフィス勤務者は平均して週に約18時間を費やしている。これは、従業員一人あたりの年間給与コストとして約2万5000ドル分に相当するばかりか、そこには従業員の30%が不要と思っている会議もある。さらに、会議を40%削減すると生産性が71%上昇するという結果が出ており、コミュニケーションの効率化がきわめて重要だとわかる[18]。会議のスピードを大幅に上げ、質を高められたら、組織の生産性は激変するだろう[19]

会議の狙いや構造はさまざまだが、おそらく最も一般的な狙いは、共通のプロジェクトに関するさまざまな視点を共有し、責任の調整と割り当てを実現することだ。このような会議は、「5–4拡張熟議」で強調した熟議的な会話と密接に関連している。SlackTeamsTrelloなどのサービスによる非同期通信の増加にもかかわらず、同期型の会議が依然として広く普及している重要な理由は、非同期の対話では、同期会議を成功させるために必要な思慮深い時間と注意の管理が欠如しがちだからだ。Polis、Remesh、All Our Ideasなどのアプローチや、ますます洗練されつつあるAIを使った拡張機能は、これを大幅に改善するはずだ。より多くの利害関係者を含む、敬意ある包摂的で有益な非同期の会話がますます可能になる。

⿻の実践とツールは、組織が直面している最大の問題について、もっとオープンで包摂的な会話も実現できそうだ。今日、方向性を設定する責任は通常、組織のピラミッド最上部に限定されている。これにより戦略開発は簡素化されるが、回復力と創造性が犠牲になる。一握りの幹部が適応と学習を怠れば、組織全体が行き詰まるのだ。また、幹部全員が並外れた先見の明を持っていたとしても、彼らの知性の総和が目の前のタスクに対して十分かは不明だ。むしろ必要なのは、W・エドワーズ・デミングトータルクオリティマネジメント(TQM)に関する研究[20]が示すように、その組織に利害関係を持つ万人の創意工夫を活用するプロセスなのだ。何万もの洞察とアイデア(たとえば、顧客のニーズや新しいトレンドについて)を生み出し、集合知を使用してそれらを組み合わせて優先順位を付け、最終的に将来についての共通の視点を抽出するオープンな会話を想像してほしい。この組織を刷新できる大きな機会は何だろう? 正面から取り組むべき最大の課題は何だろう? 共通の目的を真に反映する指向とは何だろう? 会話を新しい声に開放し、型破りな考え方を奨励し、水平的な対話を促進することで、トップダウンの儀式を、共通の未来を定義する刺激的で参加型の探求に変えられるのだ。

社内政治だけでなく、国の政治も職場に入り込み、分断を引き起こす傾向が強まっているため、一部の幹部は職場での政治討論を禁止するなどの極端な措置を講じている[21]。こうした厳格な制限は、緊張を抑えはしても従業員の士気を低下させかねない。それに代わりそうな方法は、右記のようなチャネルを構築して、特に企業方針に関連する社会問題についての思慮深く包括的な議論を、敬意を持って大規模に行うことだ。全体として、こうした技術は、職場を効率的で魅力的で合意に基づいた調和のとれたものにするはずであり、多くの幹部が目指す文化的目標の達成を支援するツールを提供するものなのだ。

⿻採用

多くの企業や職種には「標準的なキャリアパス」があり、限られた数の学科の卒業生や、専門的資格/経歴の持ち主を主に採用する。これらの企業は、この採用方針の結果として多くの有能かつ多様な候補者を排除していると嘆いてはみせる。だが「ヒット率」が低い経歴の人材を採用すると、非常にコストがかかってしまうのだ。もっと幅広い背景から出てくる有望な履歴書を選り分け、通常のチャネル以外での実績や資格を確認し、担当者をもっとたくさん遠くに派遣し、多様性のなじみのない側面を理解し、自分の組織文化にあまりなじみがなさそうな人材に研修をするよう学ばねばならない。この採用プロセスによって生じる硬直性が、前章で強調した狭い学習の道に多くの人が強制的に進まされる主な理由となる。

社会IDシステム、最新のAI、リモート共有現実技術の能力は、これらの課題の多くに対処できそうだ。「4–1IDと人物性」の節で説明したように、ネットワークベースの検証システムを使用すると、社会的距離の大きな隔たりを越えて、さまざまな資格と実績を迅速かつ安価に安全に検証できる。適切な訓練と調整を受けたAIは、近い将来、言語間だけでなく、多様な社会的文脈間で履歴書を「翻訳」できるはずだ。これにより、採用担当者は、さまざまな環境や、職務でのパフォーマンスにつながる各種の道筋について、何が「同等の」資格なのかを理解できる。同様にAIは、応募者の経歴を見て、その人に適切な職務の範囲をもっと理解できるようになる。

また、企業の顧客基盤に広がる多様性の範囲についても理解が深まり、従業員にもそれに対応した多様性を持たせることで、従業員が顧客に共感し、顧客とつながることにも役立つ。また、人事部門は、主要集団の人口比率を一致させることだけを目指すのではなく、もっと洗練された交差的な方法で多様性を最適化することもできる。リモート共有現実体験により、インタラクティブな採用イベントを幅広い会場で低コストで開催し、応募者に職場環境を深く理解させることもできる。また、前の部分で説明したように、文化適応とオンボーディングのプロセス加速も可能だ。つまり、これらのツールを組み合わせることで、はるかに幅広い才能にリーチし、誰もが独自の交差的貢献者として活躍する機会を提供する人事の未来が実現するのだ。

叡智と影響力を整合させる

ほとんどの組織では、権力は、リソースの管理、意思決定、重要な情報へのアクセス、他者への報酬や懲戒権など、どれも地位に結びついている。正式な階層構造は、誰が何に対して責任を負っているかを明確にするが、この「可読性」には重大な欠点がある。地位による権限は、財務担当役員がCEOになり、突然製品設計の専門知識を主張するなど、範囲が広すぎる場合が見られる。また、権限はバイナリ(持っているか持っていないかのどちらか)であるため、無能なマネージャーは、解任されるまで(多くの場合、理想よりずっと遅く)権力を保持する。最後に、従来の階層構造では、従業員がリーダーを選ぶ際に発言権を持たない。これは、権力が下から上へと生まれるソーシャルウェブとは正反対だ[22]

⿻職場では、アイデンティティ理論の精神に基づき、従来の単一の階層構造を、問題別の複数の階層構造で補完できる。権力は貢献度に応じて流動的に移動する。新技術は、付加価値と意思決定権を一致させるのに役立つ。たとえば、自然言語処理は、コミュニケーションデータを精査して、個別のトピックについて常に貴重な洞察を提供する社員を見つけられる。生成基盤モデル(GFM)は、動的なソーシャルグラフを作成し、主要なネットワーク上の人物を特定し、そのつながりの性質に関する豊富なコンテキストを提供し、さまざまなソースからのフィードバックをまとめ、個人の「自然なリーダーシップ」の包括的な評価を提示できる。これらのアプローチは、肩書きに関係なく人々の貴重な貢献を認識して報いるものであり、正式な権限のある地位に就いている人々についても、その地位に見合う能力を持っているかどうかを見極めるのに役立つ。これを導入することで、正式な階層構造への依存を次第に大きく減らせるのだ。

社内起業精神の支援

伝統的な階層構造のもうひとつの影響として、異なる上級管理職によってマネジメントされている人々が、親会社内で独自の文化、目標、ビジョンを持つ異なる組織を形成するようになるということだ。こうした内的区分は、説明責任を保証するために重要だというのが通説だが、組織の協力とダイナミズムの障壁と見なされることも多く、共通のインフラを提供し、変化する政治、経済、社会、技術環境のニーズ(「混乱」)に対処するために必要なコラボレーションを損ないかねない。たとえば、著者グレン・ワイルが勤務するMicrosoftは、組織内の紛争について風刺されることがあり、現在のCEOであるサティア・ナデラは、これを克服するために「ワンマイクロソフト」文化の構築を主導してきた[23]

こうした協力や啓発的なリーダーシップの模範例を通じて、その多くを実証しつつ、ナデラは右で述べた「団体とダイナミズム」に相当する組織的成果の達成支援を目的とした各種機関の設立にも貢献した。特にグレン・ワイルは、最高技術責任者ケヴィン・スコットのオフィス(OCTO)で働く栄誉に浴した。その職務には、どの個別組織にとっても利益にならない企業横断的な投資の調整や、既存の組織全体の専門知識を活用して新しいビジネスラインを構築する「社内起業」の奨励が含まれていた[24]

著者の在籍中、OCTOは多くの成果を上げたが(OpenAIとのいまでは有名な関係構築も含む)、ビジネスニーズや機会について「現場」社員より必然的に知識がはるかに少ない少人数の社員に、分野横断的な便益を目指す大規模な投資やインキュベーションの決定を任せてよいのかということが、常に問題視されていた。代表的な例は、著者が最も関わっていたWeb3戦略に関する企業横断的な技術プロジェクトだ。そこでは関心のある熟練した従業員が社内に広く分散してしまっていた。そうした投資の多くが社内のスタートアップの収益に直接結びつくのではなく、他の事業ラインに還元されるための投資だったので、このプロジェクトをまとめることは特に困難だった。さらにMicrosoftの職務構造のため、失敗の可能性を補うために最終的な成功に対して大きなインセンティブを使用するという一般的な方法は使えなかった。こうした課題を乗り越える方法は、組織によってさまざまだ。たとえば、Google(現Alphabet)は伝統的に、従業員に勤務時間の20%を、主な業務以外で、自分が情熱を抱いていて組織に有益なプロジェクトに取り組む自由時間としてきた[25]。しかし、これには明らかな課題がある。個人が自分ひとりのプロジェクトに取り組みかねないのだ。最悪の場合、そのプロジェクトはもっと広範なミッションに合わず、最良の場合でも、野心的なプロジェクトに協力するのに十分な人員を集めることができないので、通常はスケールしない。

集中管理と、協調性のない個人イニシアチブという両極端に代わる自然な方法は、⿻的な会話と資金調達ツールの活用となる。OCTOのような組織は、マッチメイキングと相互交流のサービスを提供し、多くの組織からのサポートを得て投資資金をマッチングするために、ずっと大きな予算を持ちつつ、裁量の余地はずっと小さい。社内コミュニケーションプラットフォームからのデータやプラットフォーム内の投稿を使い、組織間の関心のクラスターを特定し、そうした組織間でつながりを構築するための無料の楽しいイベントを開催し、さまざまな組織が従業員の時間やその他のリソースを投資する。そして共通の投資やインキュベーションをサポートしようと思ったら、OCTOなどがマッチング資金を提供するのだ。「20%時間モデル」と比較すると、これは組織をまたがる真のサポートがある一方で、直属の上司からは業務外と見なされるプロジェクトを追求する「自由時間」を大幅に増やせるし、純粋にその人だけの関心に対するサポートは少なくなる。そのため、従業員は投資を自分たちで調整してビジネス全体を変革できるようになり、混乱を回避するための敏捷性びん しょう せいを確保できる。

これらをまとめると、リモートチームが対面チームと同じ強い絆を形成できる未来、対面チームが集中力を維持しながら自発的なつながりを育む包括的な職場を共同設計できる未来、非同期であっても会議がはるかに効率的で包括的になる未来、はるかに幅広い才能を主導的な役割に配置できる未来が考えられる。これにより、従業員が部門を超えて企業支援で簡単にコラボレーションし、ハードルを克服し、ダイナミックなビジネス環境で雇用主が生き残り、繁栄するために必要な共通インフラと新しいベンチャーを構築できる、包摂的で適切に代表された職場が生まれる。つまり、生産的で包摂的な未来を実現できるような、社内外の幅広い多様性を受け入れて活用する、真に⿻な職場という未来は、十分考えられるものなのだ。


  1. International Labor Organization, ” World Employment and Social Outlook: Trends” (2023) at https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---dgreports/---inst/documents/publication/wcms\_865387.pdf. ↩︎

  2. Alyson Krueger, “Fewer Work Meetings? Corporate America Is Trying,” The New York Times, April 10, 2023, https://www.nytimes.com/2023/04/07/business/office-meetings-time.html. ↩︎

  3. この節で述べたように,正規部門の労働の約50%がリモートで行われ,この調査のようにチーム構築研修によってチームの能力が約25%向上し,これが正規部門の労働の約半分に適用され,便益の約半分が費用に転嫁されるとすると,リモートチーム構築の改善によってGDPの約2%の増加が見込まれる.集積のメリットが作業施設で約12%であり,これが正規部門の労働の半分に適用され, 50%改善できるとすると,やはりGDPの2%が得られる.会議が正規部門の労働時間の25%を占め,それを25%改善できるとすると, GDPの約4%になる.労働力の検索とマッチング費用の標準的な経済推計はGDPの約4%で,人的資源に費やされる費用と同程度.この費用が50%軽減されれば, GDPが2%上昇する(さらに当然,景気循環による失業費用も大幅に抑えられる).最後に,経済学者によると, GDP成長の大部分(世界全体では年間約2~3%)は,新製品の研究開発による技術進歩によるものとされる.冒頭で述べた数字によると,現在,研究開発費は民間部門が約80%を占める.より柔軟な社内起業を通じてこの効率を4分の1向上させられたら,世界のGDP成長を年間0.5%引き上げられる. Cameron Klein, Deborah DiazGranados, Eduardo Salas, Huy Le, Shawn Burke, Rebecca Lyons, and Gerald Goodwin, “Does Team Building Work?” Small Group Research 40, no. 2 (January 16, 2009): 181–222. https://doi.org/10.1177/1046496408328821. Michael Greenstone, Richard Hornbeck, and Enrico Moretti, “Identifying Agglomeration Spillovers: Evidence from Winners and Losers of Large Plant Openings,” Journal of Political Economy 118, no. 3 (June 2010): 536–98. https://doi.org/10.1086/653714. ↩︎

  4. Jose Barrero, Nicholas Bloom, and Steven J. Davis. 2023, “The Evolution of Working from Home,” __Stanford Institute for Economic Policy Research (SIEPR) Working Paper_ no. 23-19 (July 2023): https://siepr.stanford.edu/publications/working-paper/evolution-working-home. ↩︎

  5. Natalia Emanuel, Emma Harrington, and Amanda Pallais, “The Power of Proximity to Coworkers: Training for Tomorrow or Productivity Today?” National Bureau of Economic Research Working Paper no 31880 (November 2023): https://doi.org/10.3386/w31880. ↩︎

  6. Longqi Yang, David Holtz, Sonia Jaffe, Siddharth Suri, Shilpi Sinha, Jeffrey Weston, Connor Joyce, et al., “The Effects of Remote Work on Collaboration among Information Workers,” Nature Human Behaviour 6, no. 1 (September 9, 2021): 43–54. https://doi.org/10.1038/s41562-021-01196-4. ↩︎

  7. Lin Lu, Honglin Wang, Pengran Liu, Rong Liu, Jiayao Zhang, Yi Xie, Songxiang Liu, et al., “Applications of Mixed Reality Technology in Orthopedics Surgery: A Pilot Study,” Frontiers in Bioengineering and Biotechnology 10 (February 22, 2022): https://doi.org/10.3389/fbioe.2022.740507. ↩︎

  8. Rachel Umoren, Dora Stadler, Stephen L. Gasior, Deema Al-Sheikhly, Barbara Truman, and Carolyn Lowe, “Global Collaboration and Team-Building through 3D Virtual Environments,” Innovations in Global Medical and Health Education 2014, no. 1 (November 1, 2014), https://doi.org/10.5339/igmhe.2014.1. ↩︎

  9. Pekka Alahuhta, Emma Nordbäck, Anu Sivunen, and Teemu Surakka, “Fostering Team Creativity in Virtual Worlds,” Journal For Virtual Worlds Research 7, no. 3 (July 20, 2014): https://jvwr-ojs-utexas.tdl.org/jvwr/article/view/7062 ↩︎

  10. Jason Ellis, Kurt Luther, Katherine Bessiere, and Wendy Kellogg, “Games for Virtual Team Building,” Proceedings of the 7th ACM Conference on Designing Interactive Systems (February 25, 2008): pp 295–304, https://doi.org/10.1145/1394445.1394477. ↩︎

  11. Heide Lukosch, Bas van Nuland, Theo van Ruijven, Linda van Veen, and Alexander Verbraeck, “Building a Virtual World for Team Work Improvement,” Frontiers in Gaming Simulation, 2014, 60–68, https://doi.org/10.1007/978-3-319-04954-0\_8. ↩︎

  12. 「トラストフォール」とは,人が後ろ向きに倒れ,他の人がそれを支えてくれると信じるという訓練. この活動は,怪我を避けるためには他の人に頼らねばならないから,信頼とチームワーク醸成に使われる. 2010年代半ばから,トラストフォールは人気が衰えた.もし支える側が失敗したら,ひどい脳障害を起こしかねないからである. ↩︎

  13. Jih-Hsuan Tammy Lin, “Fear in Virtual Reality (VR): Fear Elements, Coping Reactions, Immediate and Next-Day Fright Responses Toward a Survival Horror Zombie Virtual Reality Game”, Computers in Human Behavior 72 (2017): 350-361. ↩︎

  14. Jane Jacobs, The Economy of Cities (New York: Vintage, 1969) 〔『都市の原理』ジェーン・ジェコブス著, 中江利忠, 加賀谷洋一訳, 鹿島研究所出版会, 1971〕. Edward L. Glaeser, Hedi D. Kallal, José A. Scheinkman and Andrei Shleifer, “Growth in Cities”, Journal of Political Economy 100, no. 6 (1992): 1126-1152. ↩︎

  15. Pixar Headquarters and the Legacy of Steve Jobs (2012) https://officesnapshots.com/2012/07/16/pixar-headquarters-and-the-legacy-of-steve-jobs/ ↩︎

  16. https://unsplash.com/ja/写真/昼間の丸い黒と白の建物-NXP7wGyUDeY ↩︎

  17. Branka, “Meeting Statistics – 2024”, Truelist Blog February 17, 2024 at https://truelist.co/blog/meeting-statistics/. ↩︎

  18. Arthur Brooks, “Why Meetings Are Terrible for Happiness,” The Atlantic, December 15, 2022, https://www.theatlantic.com/family/archive/2022/11/why-meetings-are-terrible-happiness/672144/. ↩︎

  19. Michael Gibbs, Friederike Mengel, and Christoph Siemroth, “Work from Home and Productivity: Evidence from Personnel and Analytics Data on Information Technology Professionals,” Journal of Political Economy Microeconomics 1, no. 1 (February 1, 2023): 7–41, https://doi.org/10.1086/721803. ↩︎

  20. W. Edwards Deming, “Improvement of Quality and Productivity through Action by Management”, National Productivity Review 1, no. 1 (1981): 12-22. ↩︎

  21. Ellen Huet, “Basecamp Follows Coinbase In Banning Politics Talk at Work,” Bloomberg, April 26, 2021, https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-04-26/basecamp-follows-coinbase-in-banning-politics-talk-at-work. Ibid. ↩︎

  22. Hamel and Zanini, op. cit. ch. 9. ↩︎

  23. Satya Nadella with Greg Shaw and Jill Tracie Nichols, Hit Refresh: The Quest to Rediscover Microsoft’s Soul and Imagine a Better Future for Everyone (New York: Harper Business, 2017). 〔『Hit Refresh マイクロソフト再興とテクノロジーの未来』サティア・ナデラ, グレッグ・ショー, ジル・トレイシー・ニコルズ著, 山田美明, 江戸伸禎訳, 日経BP社, 2017〕 ↩︎

  24. 企業内の略称から出てきたおもしろい現象として,彼はここでOCTOPEST (Office of the Chief Technology Officer Political Economist and Social Technologist 主任技術重役室政治経済学者兼社会技術者)という肩書きを持っていた. これは執筆時点で同僚ジャロン・ラニアーの肩書きと並ぶものだ. 彼はMicrosoftのOCTOPUS (Office of the Chief Technology Officer Prime Unifying Scientist 主任技術重役室最高統合科学者)だった. ↩︎

  25. Annika Steiber and Sverker Alänge, “A Corporate System for Continuous Innovation: the Case of Google Inc.”, European Journal of Innovation Management 16, no. 2: 243-264. ↩︎